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第2部 性交の社会学 4.呪術の世界 女性が自己をそのまま主張できた、たった一つの例外があった。 それは呪術の世界である。 科学が未発達で、生産力の低い社会では、呪術は今日より、はるかに重要な役割があった。 その呪術の担当者は、男性とは限らなかった。 呪術に限っては、女性も担当者となり得た。 呪術=まじないとは、願望を実現するために、念じて何らかの行為をすることである。 呪術は、ある出来事の因果関係を、一義的に確定することによって説得力を持つ。 しかし、出来事の因果関係を立証することは、非常に困難である。 原因は複数かも知れないし、相乗作用によるのかも知れない。 人智を越えたことに限って、呪術に頼るわけだから、呪術は必然的に超自然的もしくは神秘的な要素をおびる。 人間が猿から分かれ、狩猟や耕作を始めてからも、自然はしばしば過酷な様相を見せたに違いない。 日照り、大水、冷害など、小さな人間がなすすべもなく、自然の脅威の前に翻弄されたはずである。 明日の食料の確保がおぼつかないとき、生命が危機にひんしたとき、人間は幸運あれという希望を、何らかの形で祈った。 明日は遠足だから、晴れてほしいと思っても、テルテル坊主をつくるのである。 だから、生命の危機に直面したときには、より大規模な呪術が行われたとしても、何等不思議ではない。 願望は個人から発するために、それに対する呪術も、初めは個人に対応している。 どんな呪術も、個人の願望から出発する。 しかも、呪術 には因果関係を、論理的に立証する義務はない。 だから、きわめて個人の恣意的な、言動にとどまることができる。 呪術が、個人のところにある限り、直感力に優れた人間が、個別的な求めに応じて念じているにすぎない。 呪術は、おおくの場合、肉体を離れて、霊的な神秘の世界と交信する。 呪術の実行には、強力な腕力はいらない。 強力な腕力がいらないが故に、男性でも女性でも、呪術の担当者になれた。 そのため、呪術の担当者となるのには、性を問わなかったのである。 女性は動物のように敏感で、自然を感じ易く、異常心理になりやすいので、呪術の担当者は女性だったというわけではない。 呪術をおこなう者は、社会的な認知を受けないと、呪術者とは呼ばれない。 同じように神がかった言動をしても、気違いと呼ばれるのと、 呪術者と呼ばれるのは紙一重である。 男性の価値観が優位していた社会では、呪術者は男性たちの価値観に適合しないと、社会的な認知を受けれなかった。 呪術は誰にでもできた。 しかし、男性社会の網をくぐらなければ、呪術師と認識されなかったのである。 女性の呪術師が、呪術師として存続するためには、自ら教祖とならなければ生き残ることはできない。 換言すれば、呪術が宗教に転化することである。 それは、男性社会に適合することである。 呪術が宗教へ転じるためには、男性の賛同者=社会的な支えが不可欠となる。 けだし、個人の呪術 が、男性の社会性を帯びるのだから。 呪術は、社会からの侵食を突破したとき、宗教として社会化できる。 社会の価値は男性が支配していたので、呪術の有効性は男性が判断した。 女性の呪術が有効であると、男性に判断される限り、男性もそ れを利用した。 しかし、女性の呪術が社会性を獲得して、宗教に転じることには、男性社会は可能な限りの抵抗をした。 それは、世界の多くの宗教が、男性を開 祖としていることを見れば一目瞭然である。 |
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