第1部 腕力支配の終焉
2.職種別の男性と女性
世の中には労働そのものが、抽象的にあるわけではない。
労働は、たとえば、農作業という労働や、大工仕事という具体的な形で存在する。
それを職業と呼ぶが、一体どのくらいの職業が存在するのだろうか。
職業の種類を調べてみた。そして、それらを
1.男性でなければ不可能な職種
2.多くは男性だが、例外的に女性のいる職種
3.男女差のない職種
4.多くは女性だが、例外的に男性のいる職種
5.女性でなければ不可能な職種
に、分けてみた。その結果が次の数字である。
1−0% |
2−26% |
3−66% |
4−8% |
5−0% |
1、は力士、ボクサー、牧師、炭坑労働者など。
5、はホステス、芸者、個室浴場の女性、助産婦など。
1、と5、に属する職種は、当然のことながら、性別と固有に結びついていることが多い。
性別によって、就くことができない職種は、無数にある職種の中で、きわめて小さな数字でしかない。
日本国中の職業としては、割合で示すと、ゼロとしか計上できない。
だから、例外として処理してよい。
2、の、女性の存在は例外的という職種は、以外に多い。
たとえば、土木仕事、建築職人、溶接工、汚水清掃員、潜水工、荷役夫、大型機のパイロット、大型バスの運転手、板前、コック、外国航路の船員など。
3、は、女性の存在は少数でも、女性就業者のほうが少ない現在を考えると、決して例外的な存在とはいえない職種を分類している。
ほとんどの職種がこれに相当する。事務職、店員、営業職、教員、医者、公務員など。
4、は、女性が職業を持つことが、珍しかった時代の名残の職種である。
看護婦、電話交換手、保険の外交員など。
この統計の数字作成は1990年におこなったが、時代を変えれて調査すれば、まったく異なった結果がでると思われる。
この10年間でずいぶんと、大きな変化があったと言うべきだろう。
今まで、女性がいなかった鳶職に、大型クレーンの運転手にと、さまざまな職種に女性の進出が、みられるようになった。
もっとも女性を嫌うといわれた、日本酒を作る杜氏にも、いまや女性はいる。
この数字と、女性進出の職業調査から、次の二つの傾向が発見できる。
1.女性が進出してくる職種は、腕力を必要としないものである。
2.新しくできた職種ほど、女性の進出は著しい。
1、は、説明するまでもないと思うが、激しい肉体労働には、女性は不向きであろう。
農業のように、働く人が労働量を調整できる種類の肉体労働は、女性にも可能である。
だが、仕事自体が、労働量を規定してくるような種類の肉体労働には、手が出せない。
危険、汚い、きついの肉体労働には、なかなか女性は参加できない。
肉体労働の典型であった、港湾の荷役作業も、いまや全てクレーンである。
だから、クレーンさえ操作できれば、荷役作業には肉体的な力は不用になった。
そして、建設現場でも人力の作業は減っている。
それらは、重機械による作業へと変わってきている。
そのため、非力な女性も、それに従事することが、可能になってきた。
しかし、以前からある肉体労働職には、機械化によって腕力が不要になってきたにもかかわらず、男性の仕事というイメージがつきまとっている。
そのため、女性の進出は遅く、こうした世界では、女性はいまだに圧倒的少数である。
それに対して、新しくできた職種ほど、女性の進出は著しい。
たとえば、道路工事現場のガードマンは、いままでなら男性の職場だった。
しかし、新しい職種であるため、ガードマンに対する、特別のイメージが出来上がっていない。
それ故に、求人する方、応募する方の両者に、性別を問題にする意識がなく、しかも腕力もいらないので、女性の進出は多い。
4、は、今や男性も進出している。スチュワード、電話交換手、看護士、美容師など。
4 は、2 と異なり、いままで多く女性が就いていたと言うだけで、女性でなければ不可能という理由は何もなかった。
また、女性の専売であると言うイメージが急速にうすれているので、4 の職種の、女性の独占は崩れている。
ここで不思議なことに気づく。
2 と4 は、ちょうど裏返しであるにも関わらず、同じではない。
つまり、4 の職種には、男性が簡単に就くことが出来るが、2 の職種=きつい肉体労働には、女性は簡単に就くことは出来ない。
性に固有な職業をのぞけば、女性よりも男性の方が、職業選択の範囲が広い。
可能性の問題として考えたとき、男性に可能で、女性には不可能な職種が存在してしまうのである。
肉体労働であっても、継続的に中くらいの力を出し続けるのであれば、女性でも従事が可能である。
しかし、一度に大きな力を振り絞るような、厳しい肉体労働に、非力な女性が参加するのは困難であろう。
これは、性別の問題としていうのではない。
強力な腕力をもった人間のなかに、非力な人間が混じって作業することは危険ですらあるのだ。
今までは、激しい肉体労働を要求される職業が、世の中には非常に多かった。
肉体労働それ自体が、急速に機械に置き換えられているので、いずれ男女差は消滅していくと思われる。
しかし、少なくとも今日までのところ、職業に男女差はあったのである。 |