考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

14.外 観     その1

 敷地からはじまって、設備に至るまで、一軒の家の全体を検討して来ました。
これまでこの論が述べて来たことが、あなたの中で明確になり、総合化されれば、あとは自動的に家は完成します。
もちろん、この論では具体的な形はこういうのが良いと、断定しませんでした。
それというのも形は最後のものであり、形に至るまでの過程が大切だと考えたからでした。

 一人の人間のセンスはどうなっても、それほど変わるものではないと思います。
それは筆跡がなかなか変わらないのと同じです。
ですから、家を建てようとするあなたは、一心に自分の家のことを考えていると、自然と家が形になって来ます。
設計者とて、同じ思考の手続きをしています。
もし、家について自分だけで考えることに自信がなければ、相談料を払って建築家を相手にするのも良いでしょう。
けれども、あなたは自分の家を作るのですから、主導権はあなたが持ち続けるのは当然です。

 この論は、道路からいきなり玄関の中へと入ってしまいました。
そして、住宅の内部を考察して来ました。
とうとう一度も外へ出ることなく、常に室内に立って、内から外へと視線を向けていました。
雨風をしのぐという家の目的としては、それで良いのですけれど、もう一つ、外から全体としての家を見る視点で考えておこうと思います。
というのは、この論の最初を思いだして欲しいのです。
住宅展示場やプレフアブ住宅などを見て、心が動いた最初は、外観にきっかけがあったと思えるからです。
ここで言う外観とは外部のかっこうのことです。
あの大工にはたしてできるだろうかと、あなたが心配になったのも、また真新しい家に心が動かされたのも、外観つまりかっこ良さに最初の基があったと思います。

 外観のかっこよさ、言い換えればデザインの良さは、まずそれを第一の売り物にするのは少ないけれど、実は購入者の心理に大きな影響力を持っています。
そして事実、建築主たるあなたの頭の中には、住宅展示場で見た白い外壁とか、大きな出窓とか、とんがった屋根とかといった形で、漠然とながら、イメージが残っているはずです。
けれども、家本来の目的は何だったのかと考えてみると、白い外壁であろうと、とんがった屋根であろうと、そんなことはどうでも良いことに気づきます。
雨露がしのげるという言葉が、家の目的を端的に表わしているように、外界から速断された人工の空間として、家は考えられてきました。
ですから、黒い外壁でも、白い外壁でも、まったくかまわないはずでした。

 建築主たるあなたは、一度家の中へ入ってしまえは、家の外観を見ることはできません。
しかし、新しく自分が建てる家は、やはりかっこ良い家であって欲しい、と望んでいることでしょう。
匠研究室とて、そう思う窟持ちはおそらくあなた以上に強いと思います。
よくデザインは各人各様の好みがあると言いますが、それを理由に勝手な家を作りはしません。
そうではなく、家の外観に心がいってしまう私達の内なる原因を、もう少し検討しておこうと思うわけです。
ここでは、外観をデザインー般としてではなく、家の外部の見えようという意味で使用します。

 家をイメージする時、私達は図Tのような形を思いうかべることが多いと思います。
決して図Uのような家は想像しません。
また、新築された家へ招待された時、その家の前に実際に立ってみるまで、家の全体像として外観を想像しています。
ところが、現実には鳥瞰的に家を見ることは不可能で、家の四面の壁のうち一面、もしくは二面を見ることができるにすぎません。
それとても、まわりに何もなく、広い敷地に建っている場合だけに可能な話です。
住宅密集地にあっては、家のごく一部しか見えないという例すら、少なくありません。

 敷地の項でも述べましたが、現在はアパートや借家に住んでいても、将来は小さいながらも土地付一戸建の住宅に住みたいと多くの人が望んでいるでしょう。
そうした願望は、図Tのような家のイメージと実に上手く符合します。
それは今までの多くの家が、土地付一戸建だったからでもあるのですが、私達の想像力はどうしても、家を独立のものとして、つまり外観を思いうかべてしまいがちです。
家本来の目的は、内部にあるにもかかわらず、外観を思いうかべるのは何故でしょうか。
家と言った時、居間の様子や厨房のしつらえを思いうかべても良いではありませんか。

 かつての農家や田園にある住宅は、実に素直で、単純な外観をしていました。
これは西洋にあっても同じことが言えます。
それは風雨をしのぐ目的さえ満たせば、あとは家の内部から開かれた開口部だけが、外観を決定づける要素となっていたからです。
人類ではじめて家を作った人々は、外観をかっこう良くとは考えなかったに違いありません。
自然の猛威の前に何とか雨露をしのいで、家の中にいることができただけで、大変な幸福感を味わったろうと思います。


「タクミ ホームズ」も参照下さい

                    次に進む