考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

8.浴 室    その1

 浴室はトイレと同様に、水が必要です。
しかもより大量にかつ広範囲に。
今でこそ浴室は家の中にあって、普通の部屋と同じように扱えます。
とりわけ、ユニットバスが登場してからは、防水にもそれほど気を使わなくても良くなったので、2階でも屋上でもどこにでも設置できます。
しかし、こうなるまでには、長い歴史があったとは、簡単に想像がつくでしょう。

 たっぷりとしたお湯につかること、これは本当に贅沢なことでした。
日本では簡単に風呂へ入れるし、また以前から風呂に入る習慣があったから、その贅沢さを忘れています。
しかし、人間の体が入れるくらい大量のお湯をわかすことは、技術的にも経済的にも難しいことでした。
そのため、古くからの有名なお風呂が、自噴する温泉だったり、蒸し風呂だったことを思い出して欲しいのです。

 大量の水を用意する。
まずこれが大変でした。
水道のない時代、風呂桶にいっぱいの水をためるのは、かなりの重労働でした。
小川の水がきれいだった頃は、小川や井戸から手桶に水をくみ、何度も往復しました。
水道が引かれ、ガスが普及するに連れて、現在のように手軽な入浴が楽しめるようになりました。
しかし、今でもアジアの山奥では、体が入るくらいのお湯を沸かすことは、絶望的に難しいのです。

 水をためる器はあっても、ためた水をどう沸かすか。
早や、そこで解答はありません。
どうしてもお湯を沸かしたければ、焚き火で石を熱して、熱くなった石を水に入れます。
そして石の熱で、水をお湯にすることになります。
これで、お湯に身体を入ることが、どれだけ大変か判るでしょう。

 簡単に想像すると、ドラム缶の五右衛門風呂が思い浮かびますが、農耕社会にはドラム缶などありません。
たまたまドラム缶が手に入っても、熱源を何にするか。
木を燃やしていたら、たちまち山は丸はだかになってしまいます。
山の奥地で生活する人たちは、川で体を洗わざるを得ないわけです。

 住宅の中で、風呂は厨房と並んでもっとも変化の激しかった部分です。
薪や石炭といった裸火の熱源から、ガス湯沸器が登場するに及んで、お湯を手に入れることが格段に手軽になりました。
最初の頃のガス湯沸器は、巨大で場所取りで、口火の操作などやっかいでした。

 しかし、最近のガス湯沸器は小さくなり、温度などの設定を一度すれば、あとはもう手を触る必要がありません。
いつでも欲しい温度のお湯が存分に出ます。
しかも、追い炊きも、熱いお湯を加えることも自由に出来ます。

 ガス湯沸器こそ、住宅設備の中でもっとも便利になった物でしょう。
10年という耐久性にはいささか懸念が残りますが、もはや他の湯沸器を使う気になりません。
ここでは、ガス湯沸器(都市ガスでもプロパン・ガスでも使い勝手は同じ)を使うという前提で話を進めていきます。

 大量のお湯を手に入れることが、簡単になったと言っても、風呂は各人各様に注文があるところです。
それは日本人の入浴が、単に体を清潔に保つだけではない、何か他のものをも求めているからでしょう。
ですから、風呂に関しては、建築主の希望が大きくわかれます。

 それこそ烏の行水で、お湯に入れば良いという人からは、風呂には特別の注文が出ません。
しかし、1日の仕事を終えて、ゆっくりとお湯に浸かりたいと言う人は、風呂場にさまざまな希望があるのは当然でしょう。

 ユニットバスはどこにでも設置できますから、カタログから選定すれば、自動的に浴室は完成します。
ユニットバスも年々改良されており、平均的な浴室は入手できます。
ここで考えるのは、あなたが注文する特別な風呂です。
ユニットバスでOK、とにかく入れればいいと言うのは、ここでは考えません。
きわめて日本人的な風呂のあり方と、サニタリーと呼ばれる洗面所をつなげて考えてみましょう。

 まず、風呂をどこに作るかです。
寝室のなか、これが正解です。
朝起きてすぐ…、寝る直前に…、また2人でする気持ちよい運動の前後に…。
何かと裸になる機会の多い寝室こそ、浴室と一体化させたいものです。
しかし、日本ではこれは難しいでしょう。

 と言うのは、日本の風呂は1家に1つのもので、すべての家の人が同じ風呂に入るものです。
ですから、寝室の中に作ってしまうと、ほかの家族たちが抗議の声を上げるでしょう。
そして、客人が来たときなどは、寝室を通って風呂へ案内しなければなりませんから、やはりまずいですよね。
そこで次善の策ですが、風呂は寝室の隣と言うことにして、話を進めましょう。

 日本の風呂は、何人かの人が同じお湯にはいるのですから、風呂桶の中で体を洗わず、洗い場で体を洗います。
ですから必然的に、風呂は浴槽と洗い場を持っています。
その広さは、1坪つまり1.82×1.82の面積の中に、浴槽と洗い場が半分づつと言うのが一般的です。

 上記のサイズまでなら、ユニットバスもたくさん市販されていますし、合理的で便利な風呂はたくさんあります。
しかし、ユニットバスに代表される合理的な風呂は、何だか工業製品に入るようです。
本論は、かけがえのないあなただけの家作りを目指していますので、これではもちろん納得なさらないでしょう。

 寸法や材料などの現実的な事柄から離れて、イメージから話にはいりましょう。
風呂は瞑想の場である。
まずこうした意見があると思います。
体を清潔にすることも当然だが、それより温いお湯に長い間ゆったりと浸かって、何を考えるとなくジーとしている。
これは楽しい時間です。

 真っ白い壁が、ドームのように頂点に向けて絞られている。
アーチのような天井の中心に自分を置いて瞑想に耽る。
至福の時間です。
こうした風呂には、他に特別な仕掛けは不要です。
わずかに細く開けた窓が、庭を伺わせてくれるだけで充分でしょう。
風呂のお湯がいささか冷めた頃、差し湯をするか追い炊きをして、お湯の温度を上げてから出ましょう。 


「タクミ ホームズ」も参照下さい

次に進む