考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

4. 柱と壁    その1

 日本の建築、とくに木造建築は、柱に最大の関心をおいています。
新築された家を誉める時、まず檜の柱に節がないことや木目の美しいこと、もちろん集成材ではないことが、誉め言葉となります。
建築主も、そうした誉め言葉をきくと、内心とてもうれしく感じるようです。
新築された家へ行って、まず畳(畳一枚と柱一本はだいたい同額か)を誉める人もいないでしょう。
日本の木造建築にとって、柱は何か特別の意味をもっている部分です。

 上棟式には、建物の骨組だけがみえていますが、柱が林立している様子は、いかにも木造の芯という感じがして、思わず柱をなでてみたくもなります。
それはおそらく、私たちが古くからなれ親しんだ、木に対する愛情の無意識の表現でもあるのでしょう。

 上棟式も終わって、柱と柱の間に壁を入れて、家はだんだんとその外形を表わしてきます。
ツー・バイ・フォーと呼ばれる外来の住宅構法が同じ木造でありながら、まず壁が建ち上がるのとは著しい対照を示しています(ツー・バイ・フォーには柱はありません)。

 日本でも、大昔は、柱と壁は明確には分化していませんでした。
それが、高床系の建物から、寝殿造へと変化するにつれて、はっきりと柱と壁の分化が発生してきます。
その過程で、日本の建築は構造体が柱だ、と考えて建築されてきました。
ですから、壁には構造上の耐力を、負担させることはありませんでした。

 『源氏物語絵巻』などに登場する建物は、柱と柱の間を蔀戸(シトミド)というはね上げ式の建具でふさいでいます。
この建具は、柱と緊結されているわけではありませんから、当然耐力壁とはなりません。

 またずっと時代が下って、関東地方でよくみる田の字塑の間取りをもつ農家にあっても、壁の面積は非常に少なく、たとえあってもただ泥をぬっただけのものでした。
ですから壁が、地震力や風圧力に抵抗するような構造体ではありません。
日本の木造建築は、柱と梁などの水平材だけで構造を支え、壁がなくてもちゃんとたっていました。
(これはその多くが平屋だったせいでもあります)

 現在では、合板という板材が容易にしかも安価に入手できるため、幅広の板材についても安易に考えがちです。
しかし、かつては幅広の板材を入手するのは大変困難でした。
そのため、木造建築は細長い材料だけを組み合わせて、建築されてきました。

 柱にするような細長い材料を手に入れることはできても、製材技術と接着剤がなかったため、壁をおおうような幅広の板材を入手することは困薙でした。
そうした事情もあって、私たちの先祖は必然的に柱と壁をきりはなし、別のものであると考えてきたのでしょう。

 構造上の耐力は柱にだけ負担させて、壁には何も力を負担させないことにしました。
ですから、壁を泥でぬりこめてしまうことも可能になったわけですし、壁の全くない神楽殿のような建物も建築できました。
組積造という石造りのヨーロッパ建築は、アーチのようなかたちで、大空間を作ることはできても、壁が構造を支えていました。
ですから、壁なしの建物を作ることは困難でした。

 

 ではなぜ、柱だけで建物は地震にも抗してたっていることが、できるのでしょうか。
右図の( a )の場合、矢印の方向から力を加えると簡単に変形してしまいます。
これが建物なら倒壊ということになるのですが、それを防ぐ手段は図の( c )のように斜材=筋違(すじかい)を入れることでした。
これで、この四角形は変形しなくなりましたが、私たちの先祖はこの方法を採用しませんでした。
なぜ、この四角形は変形してしまうか、という疑問に彼らはこう考えました。

 各部材と部材の接合部が、簡単に動いてしまうから駄目なのだ。
だから、接合部が変形しないようにしてやれば、四角形全体も変形しないに違いない。

 

 彼らは、この四角形を変形させない、つまり建物を倒壊させないために材料と材料の接合部に目を向けました。
そして、この接合部は片方に穴をあけ、もう片方にそれと同型の柄を作って、はめこむという工作を生み出しました。
現在の木造住宅ですと、この柄はそれほど長くはないですが、かつては 20センチも 30センチもある柄を作りました。

 穴と柄は本当に髪の毛一本のすきもないくらいにピクリと合って、まるで同じ材料となってしまったくらいに精密に作りました。
もし、穴が小さく入らない時は、柄を削るのではなく、柄に油をぬってすべり込ませるくらいにピックリとさせました。
そのうえ、可能な個所は、右図のように柄を貫通させたうえ、その先に鼻栓(はなせん)と呼ばれるクサビを打ち込みました。

 鼻栓をさした接合部は、大変強固に固定されており、無理に力を加えると、接合部以外の部分がこわれてしまうほどでした。
こうした木の仕事を丁寧にすることによって、木造の建物は、各接合部を不動の状態にすることができました。
接合部が不動であれば、筋違を入れなくとも、この四角形は変形することはありません。


「タクミ ホームズ」も参照下さい

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