考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

10.畳と床    その1

 畳は昔からあったようですが、最初は、部屋一面に畳が敷きつめられてはいませんでした。
時代も下って、書院造の建物、つまり武家屋敷が登場するに及んで、現在と同じような畳の使用法になってきます。
しかし、当時は書院造といえば支配者たちの住む家で、庶民は相変わらず、物置小屋に毛のはえた程度の家に住んでいました。

 ある地方では、庶民は地面の上に直接、体をおいてさえいました。
江戸時代も中頃になると、庶民にもだんだんと経済力がついてきて、それなりの建物に住めるようになり、現在私たちが民家と呼んでいるものの原形ができてきます。

 当時の民家の間取りは、部屋と部屋がくっついていて、いわば大広間をいくつにか仕切ったようなかたちをしていました。
そして、まわりを廊下(入側と呼ぶほうがふさわしい)がとり囲んでいる間取りが一般的でした。
現在のような部屋と部屋を結ぶ廊下というものは、まだ発生していませんでした。
当時の廊下は、外部と内部の中間にあって、外気を直接室内にもたらさないための、緩衝地帯のような役割を果たしていました。

 この廊下は通路としての役割もありはしましたが、単に通路としての単一機能を果たしていたのではありません。
ある時は部屋の延長として、ある時は外部の侵入として等々とさまざまに使用されてきました。
冬のおだやかな日、廊下でひなたぼっこをした経験を、多くの人がもっていると思います。

 江戸時代の上級階層の建物に、部屋と部屋の間にあり、部屋と呼ぶには細長く、廊下と呼ぶには幅広い部屋がありました。
それは、畳が敷きつめられて、両側の部屋と同じような仕上げになっています。
いまでいう中廊下のようなものですが、現在の中廊下が通路としてしか機能しないのとは、だいぶ異なった性格をもっていました。
さやの間と呼ばれるそれは、畳の特長を実に上手に使用した部屋兼通路でした。

 現在では、廊下は板やカーペットで仕上っており、そのうえをスリッパで歩くのが普通です。
そして、畳のうえだけを素足で歩きますが、かつてはスリッパはありませんでした。
素足やせいぜい足袋で歩いたのですから、廊下といえども、床仕上材には緻細な配慮が必要でした。
玄関で履きものをぬぎ、土間から部屋へと連続的に変化する時、床仕上材として畳は優れたものです。
素足になじみ、夏はベトつかず冬は暖かく、断熱材とも緩衝材ともなっています。

 床が地面である土間からはなれた時、まず敷かれたのは竹でした。
直径3センチぐらいの竹を、横に敷きならべて床としました。
何度もいうように、板材は高価なものでしたから、板床となるには時間がかかりました。
しかし、いくら座り方が現在とは違っていたといっても、竹や板のうえに直接お尻をおろすのは冷めたいとか、しびれるといった欠点がありました。
やがて、そのうえにござやむしろが敷かれ、これが民家での畳の使用につながっていきます。

 襖にピンキリがあり、外見からはなかなか判断できないのと同じく、畳にもピンキリがあります。
マンションなどに使用される安物から、板入れといった高級品までさまざまです。
しかし、もはや多くの建築主には、何が上質品で何が安物かの見分けがつかなくなっています。

 畳のかたちをしてさえいれば、それで良しとする風潮は残念なことです。
そして、怠惰な精神が、維持管理に心を配ることを嫌い、2、3年に一度の畳の表替えを敬遠して、床仕上材にカーペットを選んでいます。
外国での評判が、日本の畳の再発見になるようなことは避けたいところです。

 本来、手入れ不用の建築部品など、あるわけがありません。
カーペットの本場では、日を決めてあの重いカーペットを外へもちだして掃除をしています。
また、敷きつめの場合は、消耗品として何年かに一度敷き代える手間をかけています。

 畳を1年に1度の大掃除の時に、おこしてたたくのは良いことであり、悪いことである理由は全くありません。
畳を上げることにより、普段みえないところにまで目がとどき、建物の定期点検としても大掃除は良い習慣でした。

 畳は、表と床と縁の3つの部分からできています。
表につつまれている畳床といわれる芯材、これにもピンキリがあります。
畳床は昔のものより、今のもののほうがずっと丈夫につくられるようになりました。
床作りは、その技術水準が上っていることは確かです。

 床をくるむ表には、3種類ありました。まず琉球表と呼ばれる硬くて丈夫な表です。
茶の間などの普段部屋に使用されましたが、現在ではほとんどみかけなくなりました。
建築主のほうでも、質素で丈夫なものを好まず、たとえ安物でもみかけの派手さを好むようになったのと、琉球表は機械で縫えないため、職人たちも楽をしたいせいでか、余りすすめなくなったことが、すたれた理由かも知れません。

 匠研究室は琉球表が好きで、時どき使用します。
しかし、今では入手が困難な時すらあり、流通機構の恐しさをみる時があります。
琉球表には、縁がつかないのが普通です。

 次には床の問などに使用する琉備(りゅうびん)表と呼ばれるものがあります。
これは上品な表で、このうえを歩くことは考えていないため、柔らかくみた目を大切にして、表の縫い目を大きくとってあります。
また、この表は黄っぽいものと、育っぼいものの2種類あります。

 最後に普通の表、つまり備後(びんご)表です。
現在、この備後表以外にはない、といってもよいくらい普通にみられるものです。
この表にも、縫い目のピッチやさまざまな仕様によるピンキリがあります。
密実に作られた畳は高価ですが、しつかりとした足応えがあります。
畳と何とかは新しいほうがよいといいますが、よくふき込まれて、あめ色になった古い畳表は趣きがあってよいものです。


「タクミ ホームズ」も参照下さい

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