考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

12.個 室    その1

 昔の住宅にも、部屋と呼ばれるものはありましたが、個室と呼ばれる部屋はありませんでした。
しかし、現代の住宅は、居間と台所、それにいくつかの個室群からなりたっています。
かつての住宅のつくり方とは、ほとんどかけ離れていますが、新しく住宅をつくる人はこの設計手法をとるのが普通です。
それは、以前のような大家族制と異なり、現代の家庭が核家族化し、一組の成人男女と子供という何人かの独身者を、標準としているからにほかなりません。

 居間や台所は、一軒の家に一つだけあれば用が足りますが、家族が睡眠をとるための部屋は家族の数に応じて、いくつか必要だと考えられています。
家族構成員のための部屋を個室と呼びますが、少なくとも戦前には、個室なるものは一般的ではありませんでした。
現在では、個室は夫婦のための寝室であったり、子供のための部屋であったりというかたちで目にします。
個室は、その人個人に属するという意味の部屋であり、そこがその人の作業場であることを示すのではありません。
たとえば、画家のアトリエは画家以外の家族が立入りできなくて、画家の専用室であろうとも個室とは呼びません。

 家には趣味や気晴しをする場所が不可欠だ、ということは匠研究室も知っています。
しかし、そのための部屋は、個室と似ていますが、少し性格が違います。
こうした場所は、作業のための部屋です。
つまり、本を読んだり物を書いたりするための書斎、日曜大工のための作業室、オートバイいじりのためのガレージ等々といった部屋ですが、これらは、どんな家族にとっても不可欠というのではありません。
各人の趣味や生き方によって必要であったり、不必要であったりしますから、ここでは省略することにします。

 実際の家作りとなると、そうした余計ともみえる部屋が、本当は大切なのだとは知っています。
けれども、こうした部屋のしつらえは、各人各様の具体的な麺味に出会ってから、設計の対象となるものです。
お茶に興味のない人には茶室は無用でしょうし、音楽が好きな人は、何をおいても音楽室をつくりたいと思うでしょう。
ですから、こうした麺味の部屋は、ここで一般的に語っても無意味です。
実際の建築主と出会った時に、設計者も一緒に遊ぶべく、趣味の部屋を設計しようと考えています。
また経験によると、こうした作業のための部屋や趣味のための部屋は、設計者が図面をかく前に、建築主から実に詳細な具体的指示がでるのが普通です。

 さて、個室はまず夫婦のための寝室です。
夫婦が別室で頼るのを良しとしている人もいるようですが、少し理解に苦しみます。
ダブル・ベッドか別々の床かの論議ならいざ知らず、夫婦とは何よりも、恥ずかしながら肉体関係の公言なのですから、やはり夫婦は同室に寝るのが自然だと思うのですが…。
しかし、この辺は各人の深淵な哲学の領域に属する問題かも知れません。
ですから、あまり深く詮策するのはやめにして、夫婦は同室で寝るものだ、という独断で先へ進むことにします。

 寝室といえば、睡眠をとるための部屋ですから、まず寝具が検討されて当然です。
布団かベッドかという論もよくきくところですが、なかなか結論がでないもののようです。
しかし、本当の結論は簡単です。
いままで布団に寝ていた人は布団に、いままでベッドに寝ていた人はベッドに寝れば良いのです。
両方ともに長い歴史をもった優れた寝具ですから、どちらが良いとはいえません。
両方とも良いが正解です。
ただ時どき、布団はあげおろしが大変だけれど、ベッドはそれをせずに済み、楽そうだからベッドにしたいという希望があります。
これには反対です。

 ベッドにした場合は、ベッドの作法をきちんと守らないと、快適な睡眠はとれません。
ベッドの作法は、布団と同じくらいに手間がかかります。
重いボードを持ち上げてのベッド・メイキングは、かなりの肉体労働ですし、ベッドの下の掃除もなかなかの重労働です。
そのうえ、人間はベッドに寝たとしても、布団の時と同様、一晩で200CCくらいの汗をかいていますから、日中、ベッドを風にあてないとひどく湿気ってしまいます。
(一流ホテルは、空気調整器でいつも乾燥状態を保っている)
西欧のように、湿度が20パーセント以下という地方では無用の配慮も、日本では絶対に不可欠となります。

 それにへたったベッドは姿勢が悪くなりますから、ある程度使用したら、ボードを交換する必要があります。
これは布団とても同様で、いくらせんべい布団が体に良いといっても、何年かに一度は打ち直しをしなければならないのは、いうまでもありません。
布団であれば畳、ベッドと決まれは洋間となるのも当然の話でしょう。

 あとは寝てしまえば、どんな部屋でも同じです。
就寝の防げにならないよう、刺激的な内装をさけることも常識でしょう。
ただ、ベッドにした場合は、天井の高さには注意しておくべきでしょう。
ベッドの高さの分だけ寝る位置が高くなっていますから、天井が低く感じられて、押しつぶされるような気分になってしまいます。
いくら寝てしまえば同じだといっても、寝室は長時間いる部屋ですから、健康的である必要はあります。
人生の三分の一は寝ているといいますから、寝室は健康を保てるように設計したいものです。
寝ている問に、寝室の空気を呼吸するのは、知らず知らずのうちに、体に重大な影響を与えることがあります。
寝室は、眠って意識のない時間を、快適にすごせるようにつくる必要があります。


「タクミ ホームズ」も参照下さい

次に進む