考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

12.個 室    その2

 かつての日本家屋は開放型で、窓をあければ、家の隅から隅まで凪が通り、ほこりも何も皆一緒に運び去ってくれました。
ところが、現代の住宅は、冬向きにして閉鎖型となっており、採光のためだけに窓をとるといった設計方法になってきています。
そのため、窓が小さくなり、通風が悪くなっています。
そのうえ、昔のように、朝に晩に掃除をする習慣がなくなっていますから、どうも室内がほこりっぽくなっているようです。

 電気掃除機という便利なものが出現したため、一度の掃除でより確実に清潔にできるようになりました。
ところが一度の掃除で清潔になってしまうため、掃除の回数が減り、平均的には不清潔という皮肉な現象も生まれているようです。
最近のダニやゴキブリの大量発生は、視覚的な清潔感のみに頼る掃除方法の限界を示しています。
朝夕の掃除と年一度の大掃除というかつての習慣は、もう一度検討の余地があると思います。
習慣としての掃除とでも呼ぶべき方法は、近視限的な合目的性を追及するより、かえって有効かも知れません。
いずれにせよ、通気、殺菌、除湿などは、検討されてしかるべきです。
しかし、通気は換気扇、殺菌は紫外線電灯、除湿は除湿器という対処療法は、家作りとしては疑問の残るところではあります。
設備に頼ることなく、可能な限り、建築設計として解決したいところです。

 寝室には付随して、クロゼットか納戸が欲しいところです。
アメリカの寝室は、クロゼットとバスルームを含んで、一寝室と呼ぶくらい組として考えられています。
収納量だけを比較すると、クロゼット式より、廊下などの長い壁面を収納にあてるほうがたくさん入ります。
けれども、寝室は裸で歩きまわれる前提で設計しますから、下着や衣類がどうしても、その部屋内に収納されている必要があります。
夫婦の身のまわりのものを、クロゼットに収納することによって、タンスがなくなり寝室は広々と使用できます。
また、バスルームも寝室に専用でつけたいところですが、日本の住宅事情は、それはまだ贅沢だとしているようです。

 夫婦の寝室について述べてきましたが、寝室は厨房などのように、活発な議論の対象にはまだなってはいません。
それは、寝る場所さえ確保できれば良いという最低限の事実と、寝室は他人にみせるものでもないし、建築費を払う当人のためだけの贅沢をしない、という謙譲の美徳によるのかも知れません。

 寝室を和室とした場合は、布団をあげればどのような用途に転用することも可能です。
ところが、洋間とした場合は、どうしてもベッドが部屋の大きな面積を占領して、簡単に他の用途に転用することはできません。
敷きっばなしの布団を、他人にみせるのがなぜか恥ずかしいように、ベッドを他人にみせるのも、やはり恥かしいものです。
ところでそうしたなかでも、寝室の独立性が要求されているのは事実のようです。
寝室の設計基準は、外部からのぞかれないこと、雑音の侵入を防ぐために、遮音に気を配ることとされています。
まったく当り前のことです。
しかし、個室としての寝室などなかった戦前は、一体どうだったのでしょうか。

 こうした設計基準を守った部屋でなければ、夫婦は睡眠がとれなかったのでしょうか。
それともかっては、睡眠などとらなかったのでしょうか。
そんなことはありません。
いつの時代でも、睡眠をとらない人間などいません。
ではなぜ、個室の寝室となって、寝室の独立性を云々されるようになったのでしょうか。
それは、どうも親としての夫婦のほうからの都合によるように思われます。
夫婦の夜の営みが大胆になり、それを楽しもうという傾向が、寝室の独立性を要求しているように感じられてなりません。
ただ、睡眠をとるだけなら、子供たちと一緒に寝ても何の不自由もないはずだからです。
もちろん、こうした傾向を支持します。


「タクミ ホームズ」も参照下さい

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