考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

12.個 室    その3

 セックスが悪いことだとしたら、その結果生まれた私たちは、皆悪者になってしまいます。
しかし、セックスはたとえ家族であろうと、他の人にみせる必要もないと思います。
だから、寝室の独立性を高めることに賛成します。
けれども後で詳しく述べますが、夫婦の寝室の独立性が高くなることは、たとえ、それがセックスをきっかけとしてであれ、ますます夫婦のきずなを強める結果になります。
そして、それは思わぬ副産物を生み出します。
かつての大家族時代の夫婦は、二人だけで部屋をもつことはできませんでした。
そこには、いつも子供や他の人間が存在し、家族全体としての親和力が強く、対としての夫婦の結合カは現在より弱いものでした。

 家作りで、本当に問題にしなければならないのは、新しい家をつくった時に発生する人間関係の変質です。
そこで、他のいくつかの個室の具体例を検討して、最後にもう一度個室そのものがもつ意味を考えてみようと思います。

 個室といって、次には子供部屋です。
子供の数が少なくなってきたので、いまでは子供たちにそれぞれ個室を与えることが可能になってきました。
かつて、五人も六人も子供がいた時代には、子供の一人一人に個室をもたせることは、絶対的に不可能でした。
また、子供に限らず、家族数が多ければ、各自が個室をもつなどは夢物語でした。
ですから、何人かで一部屋に寝るのは、自然の成行きでした。
そうした時代に育った人びとは、いつも自分だけの場所が欲しいと思っていたに違いありません。

 だんだん成長するにつれて、自我が形成されて、家族には知らせたくない自分だけの秘密をもつよぅになると、自分の机、自分だけの場所が欲しくなったはずです。
そうした人びとが結婿しても、現代では一人かせいぜい二人しか子供を生みません。
ですから、子供に個室を与えることが、不可能ではなくなりました。
西欧の個人主義に支えられた、美しい個室のイメージと重なって、子供に自立心をうえつけようとばかりに、子供部屋がつくられています。
しかし、匠研究室は子供部屋を個室とすることに、少々疑問をもっています。
子供の性格を決めるのは、よく三歳までだという話をききます。
もちろん、三歳以降もひきつづき性格形成がなされますが、いずれにせよ、相当早い時期からだろうとは想像がつきます。

 子供部屋をつくる理由の、まず第一にあげられるのは決まって、子供に自立心をつけるためというものです。
ところが、日本の育児をみていると、乳幼児の時代は親との密着度が非常に高く、子供に自立心をつけたいと、考えているとは思えません。
子供部屋をつくる話がでてくるのは、どこの家でも子供が小学校に入るころが多いはずです。
子供の勉強のための個室もさることながら、子供に自立心をつけるのが目的なら、実はこの時期ではもう遅いのではないでしょうか。

 この時期に子供部屋がとりざたされるのは、何か他に別の理由がありそうです。
それは、ある程度もののわかるようになった子供が、親の夜の生活に少しさしさわりが生じてきた、という理由もあるのではないでしょうか。
親のために、子供を追いだすょうな破廉恥な親ではない、といわれるかも知れません。
けれども、夫婦とは本当に恥ずかしながら、肉体関係の公言です。
私たちは、誰でもその結果生まれてきました。

 現在のような子供部屋の作られ方は、親の都合で体よく、子供を子供部屋にとじこめることを意味してはいないでしょうか。
こんな書き方をして叱られそうですが、親の主観的な考え方とは別に、子供は生まれたその瞬間から、おとなに向かって人生のスタートを切ったのであり、小学校が子供の自立の出発点になるとは考えられないからです。
なぜこのようなことをいうかというと、子供が自立心をもつことは、子供自身が望んでいるわけではないからです。
子供は、本当はいつまでも甘えていたいはずです。
しかし、成人になって、自立心がないと生活できない社会に入るために、親が子供に贈る最高の財産、それが自立心です。

 おとなと子供の世界が、厳然と区画されて、子供はおとなの世界にはなかなかいれてもらえません。
どんな社会でも、子供はおとなの世界からしつけられる以外に、育てようがありません。
おとなの社会で、自立心がなければ生きていけないとしたら、子供に自立心を育てるのは親の義務ですらあります。
子供部屋が自立心の象徴だとしたら、なぜ、小学校に入る頃が、子供部屋をつくる時期なのでしょう。
西欧のように、生まれてすぐ一人で寝る習慣をつけられているのであれば、子供部屋も個室になる必然性は納得がいくのですが。


「タクミ ホームズ」も参照下さい

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