考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

11. 居 間     その6

 和室の居間は6畳です。
しかし、6畳の部屋が1つあるのでは家になりません。
玄関やらとの関係、他の部屋とのつながりをみなければ、居間の設計は片手おちですが、ここでは台所との関連だけを確認するにとどめます。
そして、居間そのものの問題へと話をすすめます。

 居間は、和室であろうと洋間であろうと、台所と隣接していて欲しいところです。
有名な建築家が設計した住宅でも、居間と台所がはなれている例はたくさんあります。
しかし、そうした住宅は、女中の存在が前提になっています。

 この論が対象としているのは、女中を雇えるほどの金持ではありません。
家族3〜5人ぐらいのごく標準的な家庭です。
そうした家庭では、家庭内に上下関係や雇用関係がないため、団らんの場には、家族全員が参加することが前提となります。

 団らんといっても、それを支える裏方の作業が、必要なことはいうまでもありません。
かつては女中がそれをやってくれましたが、現在では家族の誰かが、それをやらなければなりません。
なぜ、居間と台所を隣接させるべきか。それは、裏方の作業をする人が、孤立感に襲われるのを防ぐためです。
ですから、単に台所と居間は隣接させるだけでなく、居間の雰囲気が台所へも伝わる程度の軟らかい仕切りにすべきです。

 台所での仕事は、居間に集まる人びとのためになされます。
台所の雰囲気が居間へ、居間の雰囲気が台所へと、やんわりでも伝わるようにしておけば、たとえ誰がその仕事をやるようになっても、1人で寂しく作業をしている孤立感に襲われずに済みます。
そうしておけば、特別に片づけが大変な時は、居間にいる人に応提をたのむのも、簡単にできるというものです。

 和室仕立ての居間には、どうしても座卓が必要です。
それはなるべく軽く、できれば折りたたみ可能なものが良いようです。
そして、その座卓を中心にして、家族は車座になります。
6畳で良いとはいいながら、6畳はけっして広い部屋ではありません。
ですから、居間の壁ぎわに、茶ダンスやら鏡台やらテレビなどの家具類をおくのは、どうしても避けたいところです。

 居間を支える装置は、ある程度予測がつきますから、それこそ設計段階で壁面収納のようなかたちで組み込むべきです。
まわりの壁に収納装置を用意しておかないと、6畳の居間も有効面積は、4畳半とかになって狭くなってしまいます。
座卓をおいた以外の6畳全部が、家族用の畳として開放してあれば、6畳の畳敷き居間は実に有効に働いてくれます。

 

 居間は、単一の機能を満せば済むのではありません。
来客があって、大勢になる時もあれば、家族の誰かが病気になる時もあります。
こうした日常とは少し違う事態が出現しても、居間は対応できなくては困ります。
そこで、6畳の畳敷き居間がより有効に働くように、隣りにもう一つ6畳の和室を接続します。
そしてその境には襖をたてます。
通常は手前の六畳を使用して、来客時などには襖をはずして12畳として使用しょうというわけです。

 何ということはない、昔よくみた二間つづきの間取りではないか、といわれるかも知れません。
確かに一見似ています。
けれども、新しい二間つづきは、部屋に対する性格づけが違います。
かつての二間つづきは、奥の部屋が上座あつかいになっていたはずです。
奥の部屋にはたいてい床の間があって、何やらいかめしい雰囲気をもっていました。
ところが、新しい二間つづきは、むしろ手前の6畳を格上として考えています。
ですから、もう一つの6畳が都合でとれなければ、5畳でも4畳半でもかまいません。

 二間つづきは冠嬉葬祭に便利なだけで、普段の生活には使いづらいといわれてきました。
しかし、どこか別に予備室という名で、もう一部屋をとるとしたら、居間の隣りにくっつけたほうがはるかに便利です。
たとえば、子どもづれの来客の場合、おとなたちは静かに歓談しても、子どもたちは少しもジィッとしていないはずです。
せっかくのおとな同士の話もじゃまされたくはありません。

 そうした時、襖をあけはなし、隣りの6畳が子どもたちに開放されます。すると、おとなはおとなの話をつづけながら、子どもたちの世話ができるという具合です。そして、また奥の6畳は病人のための仮りの病室としても、優れたものであることは、もういうまでもないでしょう。

 狭い部屋は暖房の面からも有利です。
現在建築される住宅は、かつてのそれと違って、すき間風もなく、ずっと快適なはずです。
しかし、それでも広いよりは狭いほうが、暖房効率が良いのは当然です。
ですから、新しい二間つづきの居間も、冬はなるべく狭くして使用したはうが良く、それは、視覚的にも暖かく感じます。
冬の間、この二間つづきを広ろげて使用する場合は、大勢の人がいる時のはずです。
たくさんの人が入ることによって広ろげられた部屋は、人の熱でそう寒くも感じません。

 狭ければ狭いほど暑く感じますから、夏は部屋の境の襖ははずして、どこかへ片付けてしまいます。
そして、お金に余裕があれば芦戸を建てこみたいところです。
芦戸は夏の風物として、いかにも涼し気な気分をかきたててくれます。
もちろん、芦戸を建てこまなくても、襖をとりはらっただけで、実に広びろとして気持が良くなります。
これは、最初から12畳の一部屋としてしまっては、けっして味わえない壮快感です。

 もう一つ昔の人の知恵を借ります。
この二間つづき居間の南側に、60センチいや45センチ幅で良いから、廊下をつけます。
これはかつて古い家で良くみられた入側という廊下の変形です。
昔、たてつけの悪い建具しかなかった時代に、人は何とか快適にすごす方法を考えました。
いまでこそパッシブソーラーといって、新しいもののようにいいますが、発想は古くからありました。

 部屋に付随したたった数十センチの廊下が、室内の温度調節に大きな役割を果たしてくれます。
外部から、霧除ひさし、雨戸、ガラス戸、カーテン、廊下という空間、紙張り障子というように室内に連なる時、それぞれが夏に冬に、うまい具合に温度調整器として役立ってくれます。

 現在の設計思想は、温度調整器というと、すぐ機械的な設備を思いおこします。
そして、設備にお金を投ずることには、ためらいを示しません。
温度調整器としての南廊下なる空間には、それが無形なため、なかなか目をむけません。
これは、輸入された空間概念による拘束なのかも知れません。
計量しにくい、一見無駄と思える南廊下は、いまやっとその本当の役割が認識できます。

 匠研究室は新しい居間として、居間、奥の部屋、南廊下と3つをセットで考えたいのです。
そして、これを新しい茶の間の登場と呼びたいのです。
こうした組み変えは、けっして派手でも何でもありません。
ですから、建築雑誌にもとりあげられませんし、この提案には多くの設計者がとまどい、ためらいを示すでしょう。
なぜなら、格好良く目先きが変わらない限り、設計料がもらいにくいではありませんか。
建築主にさすが設計者、大工と違ってセンスが良いといわせれば、設計料も気安くとれるというものです。

 一見格好良くみえるモダンな家も、日本人であるあなたが住人です。
それを設計した設計者が住むのではありません。
新しい家に、夢をかけるのも結構ですが、新しい家は、いま住んでいるあなたの家と、まったく無関係にでき上がりはしません。
新しい家に移っても、あなたはいまの生活の大部分を引きザって、生活する以外に道はありません。

 そうした事実に思いいたる時、あまり変わりばえのしないこの二間つづきの新しい茶の間にも、再考の機会を与えて下さい。
いまの生活と無関係な夢を、家作りとして追求するのではなく、いまの生活の総点検が、新しい家作りの基準として出発するようでありたいと願っています。


「タクミ ホームズ」も参照下さい

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