9. 厨 房 その4
料理を考えてみますと、まず材料です。
農家でない限り、自家製野菜や肉などを入手することほ不可能です。
通常はある規格の量で、販売されていますから、当座使用しないとわかっていても、余分に購入せざるを得ません。
料理に入る前に、その余分な分をどう貯蔵しておくかという問題につきあたります。
野菜は、土の中にうめて貯蔵するのが最良なのでしょうが、入手された野菜がすでに洗ってある場合は、それも不可能です。
本論は、アパートやマンショソなどの共同住宅ではなく、一戸建住宅を対象としていますから地面はあるはずです。
ところが、入手された材料が自然のままではなく、すでに人の手が加えられているのですから、地中貯蔵という方法は少し違ってきます。
あえて、妙な話からはじめましたが、その理由は最近の住宅設計では、収納の話題はたくさんあっても、貯蔵が論じられるのは少ないからです。
本来、料理の材料は、収納の対象としてあつかわれるのではなく、味噌にしろ、漬け物にしろ、貯蔵の対象として考えられていました。
つまり、厨房の設計は、まず貯蔵から出発したらどうかという提案です。
口に入れるものは食品ですから、まず貯蔵を考えるべきだというのが提案です。
多様化した食生活に対応して、材料も少量多品種となり、家族数が減ったことと相まって、大げさな貯蔵が不必要となったのは事実です。
しかし、それでもお気に入りの味噌や米、化学調味料の入っていない漬け物、隠し味となるニンニクのしょう油漬け、自家製のくんせい、干物、そして年代もののワインなど、いまでも貯蔵の対象となる食品はたくさんあります。
そのうえ、冷凍保存も貯蔵だと考えると、動物性タンパク質や野菜類、自家製のルーなどもその対象となり、ずっと範囲は広くなります。
こうしたものの貯蔵場所を、敷地のなかに確保するとすれば、おそらく地下ということになります。
居住空間として地下室を建設するのは、多大な建築費もかかりますが、多少の湧れや湿気の許容される貯蔵庫としてであれば、地下は魅力的です。
材料を加工する段になると、水です。流し台もしくは洗い場と呼ばれる場所は、ふつう冷蔵庫の並びに設けられます。
水の処置は大切です。
ここでは、一度に大量の水がでる吐水口が欲しいところです。
そして、広くて探さのある流しが必要です。
2槽式、3槽式よりも、1槽でよいからできるだけ大きなものが、使いやすいようです。
この附近には刃ものを研ぐ場所を、是非考えておきたいものです。
切れない刃ものは、野菜の細胞をつぶし、肉汁を出してしまうので、おいしい料理づくりには全く不向きです。
切れない刃ものは危険ですらあります。
和包丁なら家庭でも手軽に研げます。
洋包丁は少し難しいですが、やはりいつまでも研がずに使い続けるわけにはいきません。
まな板も、大ぶりで丈夫なものが欲しいです。
まな板をおく調理台も、広く設けたいところです。
そして、3口のガス・コンロ、このなかにはハイカロリー・コンロを1口含めておきます。
本職たちの仕事場と、家庭のそれとが決定的に違うのは、ガス・コンロの火力です。
ハイカロリー・コンロは、妙めものの強い味方です。
熱を加えると、必然的に煙や湯気がでます。
いままでは、レンジ・フードや換気扇をコンロの上部に設けて、たち登ってきた煙を排気していました。
しかし、周知のように、それでは不充分です。
油の小さなカスが空中をさまよい、気付いた時には、台所じゅうが油とほこりの混合物でベトベトしているのが、現在の多くの家庭の厨房です。
匠研究室でも、初期のころに設計した厨房は、どうしてもその傾向からのがれられず、窓をつけたりして排煙排気には悪戦苦闘しました。
けれども、有圧換気扇を使用するようになってからは、ほとんどその問題は解決しました。
(ハイキエースなる商品名で市販されてもいる)
現在では、有圧換気扇は標準仕様となっています。
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