9. 厨 房 その5
さて、できた料理を盛りつける時には、食器が登場します。
食器を収納する食器棚は、各家庭によって大きさが異なります。
食器棚の容量は、おのおのの家庭にあわせるとして、是非とも欲しいのは盛り付け台つまり配ぜん台です。
たとえワゴンでもよいから、盛り付け台を用意しておかないと、調理台がその代役を要求されて、せっかく広くとった調理台も台なしになってしまいます。
新しい厨房をつくる時によくでる話ですが、オーブンが必要か否かがあります。
結論からいうと、いままでオーブンを使っていなければ、新しい厨房でも不必要です。
新しい厨房に、オーブンを新設しても、95パーセント以上の確率で宝のもちぐされになります。
そのほかに、考えておかなければならないものに、各種の電気製品があります。
電気製品を積極的に購入し、家事労働の軽減を計ろうといぅのではありません。
電気炊飯器はともかくとして、購入してしまったトースターや、ミキサー、電子レンジ、コーヒーメーカーなどの置き場対策です。
今後も増えこそすれ、減ることはけっしてない電気製品には対策が必要です。
電気製品は場所をとります。
ナベやカマを戸棚のなかにしまいこみ、みえないように収納するのに対して、ミキサーやトースタなどはみえるままに棚の上においても許されるので、少しは気が楽になります。
ナべを隠し、トースターをみせる心理は何なのか、面白い現象です。
こう考えてくると、ハタと壁にぶつかります。
おいしい料理づくりのための厨房設計をめざして出発したこの厨房考も、いつの間にか快適な労働環境と、便利で美しい台所設計へと転化してしまいました。
大げさにいえば、食生活とはその民族の文化そのものなのですから、厨房機器をどう配列するかといった次元で語れるはずがないのです。
急速に変化する食生活のなかで、何がおいしいのかということすら変わってしまう昨今に、台所の一般解を捜すのは無駄な試みかも知れません。
カレー、ハンバーグ、スパゲティが家庭科理の代表となったといわれる現在、やれ貯蔵だやれハイカロリー・コンロだというのは笑止かも知れません。
人間の味覚そのものが、自然をはなれ、インスタントもの、人工味覚へと傾斜していきます。
そうした背景が、作業場としてではなく、見て美しい厨房を要求しているでしょう。
そうした風潮が、高価なシステムキッチンを求めさせているのかも知れません。
街の中華料理には、大量の化学調味料が使用されているのは、周知の事実です。
化学調味料を使用しないと、何だか頼りない味に感じてしまう人間の味覚とは不思議です。
インスタントのコンソメ・スープになれた人は、きちんと手をかけた本物のコンソメ・スープに出合った時、ちょっと古めかしい感じがしたりするのも妙なものではあります。
文明の進歩が、家庭生活だけ孤立させることを許さず、どんどんと時代の変化を家庭に送っています。
近代文明の産物にとり囲まれていても、私たちの生きるということは、時代を越えて続けられてきたことの集積です。
電話回路が故障すると、たちまち困難に陥る現代生活といわれますが、家庭で営まれている生活は、本当のところ現代文明にだけ立脚点をおいているのではありません。
もっともっと生身の人間の直接的な部分が、家庭生活をなりたたせているはずです。
集中的に厨房めがけて押し寄せる商品の群を、一度向こうへ押し返して、食生活を考えなおすことこそ、厨房設計の第一歩だと信じています。
あなただけのライフスタイルの追求が、本論の主題でした。
食生活は、ライフスタイルとても大きな部分を占めるものです。
あなたの食生活とは何か。
商業主義に踊らされる前に、いかなるものをどう食べたいのかを、考えてみてもよいのではないでしょうか。
私たちは厨房というと、まずシステム・キッチンとか、デイスポーザーとか、冷凍冷蔵庫とか、電子レンジとか、といったものつまりハードウェアに目を向けてしまいがちです。
あなたの生き方は、物で表わされるのではなく、無形のもののはずです。
売らんかなの商業主義が、相手にできるのは物を売ることでしかありません。
物自体は工業製品であることが多いため、各自が家庭でつくるわけにはいきません。
またたとえ、日曜大工でつくれる程度のものであっても、本職たちのつくったものに、素人がかなうはずがありません。
けれども、無形のソフトつまり自分流の生き方、好みといったものは、誰あろう本人たるあなた自身以外は、わかるはずがありません。
この厨房考は、おいしい料理をつくることにこだわってきました。
家庭の厨房が、おいしい料理にだけ奉仕する作業場ではないのは、百も承知で極論してきました。
料理が早くつくれる厨房もよいでしょう。
見て美しい厨房、後かたずけしやすい厨房もよいでしょう。
まだまだたくさんの要素が、実際の設計には要求されます。
現実にでき上がる厨房は、そうしたさまざまの要素を考え合わせた折衷案として実現されます。
ここでは、厨房とはおいしい料理をつくる作業場だと考えて、厨房の設計を追求しました。
厨房設計を支える建築主たるあなたのイメージと、この論をつき合わせる時、あなたの求める厨房は、より鮮明に実現されることでしェう。
|