考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

13.設 備     その2

 設備は多くの場合、会社つまりメーカーによって工場で生産された製品に負っています。
電気器具、電材は電気メーカー、衛生器材ほ陶器メーカーといった具合です。
メーカーは利潤を上げることが目的ですから、さかんに宣伝をします。
自分たちの生産しているものは、本当に優れたものだ、これは人間生活に不可欠のものだとばかりに宣伝します。
そして、少しでも建築主に、財布のひもをゆるめさせようとします。
快適さや便利さはお金で買えますが、限られた予算のなかでは優先順位があって当然です。

 あなたが、本当に必要だと思う設備には、充分にお金を投じて下さい。
照明や水道が不可欠だとは思います。
しかし、食器乾操器となると、ちょっと首をかしげたくなります。
また、冷蔵庫でも大きいほうが良いとばかりに、700リットルも容量のあるものを買う時、冷蔵庫をおくための場所をつくるのにも、建築費がかかっていることを忘れてしまいがちです。

 坪60万円で建築された家であれば、冷蔵庫をおくためだけに、10万円程度の建築費を投じています。
もちろん、現代住宅にとって冷蔵庫は必需品ですから、ある程度の建築費を投じるのは当然です。
しかし、ますます肥大化し、単能化する設備機器には、まず一度疑ってかかるのも良いでしょう。
それは、設備類が近代工業の発達とともに、日進月歩で変化しているからでもあります。
今日、多くの工業製品は、7〜10年の耐用年数で設計・製造されています。
しかし、建築本体の耐用年数は30〜50年です。
いや作り方によれば、もっともっと長い年月にわたって居住に耐えてくれます。
このギャップをどう埋めるかも、是非考えておかなければなりません。

 建築でいう設備とは、実は製品そのものではなく、その製品が使用できるような状態をつくるための施設をさします。
ですから、電気の場合なら、道路の電線から受電して室内コンセントまで、水道なら道路下の本管とりだしから、量水器を経て蛇口までといった部分をさします。
それに製品がからみ合って一線を画せませんが、(正確には、設備はすべて製品の集合である)いづれにせよ、製品の交換を考えて設計される必要があります。
将来的には、電気の使用量は増えることはあっても減ることはないだろうし、また、高電圧の家庭電気製品が登場してくる可能性があります。

 しかし、電気はそれほど問題にはなりません。
むしろ、やっかいなのは水です。
古い家では、直径13ミリの水道管で、三つか四つの蛇口をもっていたにすぎません。
しかし、現代の住宅は、トイレにすら水道が必要です。
二階にもトイレが欲しいという時、13ミリの水道管では少し心もとないことになります。
しかも、水は圧力をかけて送りますから、高台にある家と、低地にある家では事情は著しく異なります。
また管径の変更は、水道本管からの付け替えとなりますから、道路を掘らなければなりません。
その道路が、市道か都道か県道かによっても事情は著しく変わります。

 そのうえ、水は給水したら、そのままで良いということはなく、必ず排水しなければなりません。
給水は水だけだから良いとしても、排水は水以外にさまざまな汚物を運んでいます。
排水管の径も太くして、水勾配もしっかりとらなくてはなりません。
水まわりの設備は、当初からよはどしっかりした設計をしないと大変なことになります。

 実をいうと本論では、おのおのの設備については、詳細に論じなくてもよいと思っています。
それは、ここで設備について論じなくても、さまざまな広告情報というかたちで、建築主の限にふれるからです。
システム・キッチンやその他新製品の情報は、設計者よりも建築主のほうが良く知っているなんてことは、もう不思議でもなんでもありません。

 設備は、ほっておいてもメーカーや建築業者たちが宣伝してくれます。
このインタ−ネットの中にも、そうした宣伝はたくさんあります。
建築業界が不況の昨今、設備に贅をこらすことが売上げを伸ばす方法ですから、設備機器の販売攻勢はますますさかんになるでしょう。
しかし、設備機器の売り手は、その器材だけを売るのであり、あなたは家全体に住むのだ、ということは是非覚えておいて下さい。

 それともう一つ、設備は維持のため、それを使用するためにも必ず費用がかかることも、考慮のうちに入れておいて下さい。
トイレにしても、水洗化すれば水道代がかかります。
水洗トイレのための水道代ぐらいは、ケチらないよう建築主に希望します。
しかし、セントラル・ヒーティングとなると、かなりの金額になってしまうのは事実です。
快適そうだからと、セントラル・ヒーティソグを採用したけれど、その維持費に耐えられず、電気コタツや石油ストーブを使っている笑えない例は少なくありません。
ただ恥しいから、誰も自分の失敗を大声でいわないだけのことです。

 家の設計とは、全体を考えることです。
どんな項目でも、家全体のなかで投資する一項目であることを、頭の片すみにおいて下さい。
特別な設備にお金を投ずれば、総予算が上がるか、総予算を変えなければ、その分どこかが減っています。
減った部分が、人間にとって大切だけれど、声の小さな部分ではないことを祈っています。

 あなたの生き方に従って、不用な部分が削除されたのであって欲しいものです。
壁や天井、玄関や居間などここで述べてきたのも、家作りの一部であることには変わりありません。
しかも、大切な一部であると匠研究室は考えています。
これらは誰も代弁してくれませんから、声を限りに訴えたつもりです。

 設備については、どうも消極的な意見しか述べられない一抹の寂しさがあります。
それは、設備を充実させる方向の行きつく先は、完全冷暖房つきのトーチカか、さもなくば宇宙船のような人工環境であると思えて仕方ないからです。
建築本体を大切にするという、私たちの先租がつくりあげた無形の遺産を、ここ数十年の技術革新がくずしてしまっても良いものでしょうか。
もちろん、何度もいいますが、設備が不用だといっていると誤解しないで下さい。
全地球的規模で、宇宙船内のような人工環境を手に入れられるなら良いのですが、それは不可能です。
私たちは、自然と共存しなければ生きていけません。

 本書で延々と述べてきたことは、建築主たるあなた自身の生活の本質を考えることでした。
それは同時に、生活の器である住宅を考えることでもありました。
そのうえで、自分の好みに従って、家作りをするという提案でした。
ここに至ってはじめて、建築主と建築家が家作りに協働できると考えています。


「タクミ ホームズ」も参照下さい

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