考える家  : 気配の住宅論

目 次

 1.敷 地  2. 玄 関  3.光と闇  4. 柱と壁  5.建 具
 6.天 井  7.ト イ レ  8.浴 室  9. 厨 房 10 畳と床
11.居 間 12.個 室 13.設 備 14.外 観 15.あとがき

6.天 井    その3

 寺院建築でみられるような格(ごう)天井から、軽快な敷目張天井までさまざまです。
現代建築では、天井がないというのは少ないはずです。
むしろ、天井にも意匠をこらし、照明を組み込んだり、天窓を切ったりしているのが昨今です。

 不必要だけれど、大工の手間賃かせぎのためだけに、無理やり天井がつくられてきたのでは、もちろんありません。
天井は上からゴミの落ちるのを防ぎ、室温の調節膜としても、大きな役割を果たしていました。
しかし、天井は同時に屋根裏を隠す役目もおっています。
私たちは限にみえる部分はきれいに仕上げたいが、みえない部分はきれいでなくとも、許してしまう傾向があります。
屋根を構造的に支える木組は、当然のことながら屋根裏にもしっかりと組まれています。
天井がないころは、天井裏の部材は全部下からみえてしまいますから、きれいに仕上げなければなりませんでした。

 縦横にからみあう部材の接合部も、雑な工作は許されません。
そして、建てる時には工人たちが、星根の上に登って組み上げていきますが、その時も、部材の上に土足でのるのは許されません。
つまり、天井がないと、天井裏もしっかりと仕上げないといけない理屈でした。
最近でも天井がない建物は、その通りにきちんと仕事がされています。

 ところが、天井をはってしまうと、みえなくなってしまうため、構造さえ満足すれば良いという考えを許しました。
それは、部材は荒木のままで仕上げない、加工のために付けた墨も消さない、接合部には金物を多用するというふうに、荒っぽい仕事へと結果してきました。

 天井裏をきれいに仕上げるのは、天井を張るのと同じ、もしくはそれ以上に大変神経を使う作業でした。
ですから、天井を張るようになって作業は楽になりました。
これは構造と意匠が分かれたため、作業が構造と意匠に分けてすることが、可能になったからです。
意匠部分は、構造がたちあがってから、別のところで加工するためと、力を負担しないので部材も細くすることができるため、以前にもまして、きれいで繊細な仕事がなされるようになりました。

 
天井の高さを決める式

床から鴨居までの高さ+部屋の畳数×0.1
=天井の高さ

例:6畳の部屋の天井の高さは
1.76p+6×0.1=2.36p 

 天井の高さも、構造から切りはなされて、自由に決めることができるようになりました。
広い部屋には高い天井、狭い部屋には低い天井といった具合に、つくる人間の美意識によって、天井高は決められるようになりました。
長い間に、部屋の広さと天井の高さの関係式ができ、つい最近までそれが使用されていました。
しかし、不思議なことに、現在では広い部屋も狭い部屋も、一律に同じ天井高になっています。
これにもいくつかの理由はあるのですが、せっかく天井が自由になったのですから、天井高も上手にあつかいたいものです。

 天井自体以外の話が長くなりました。
天井もデザイン的にどう処理するかという問題は、部屋全体とのかかわりのなかで考えるべきですから、天井だけをとりだして語るのは余り意味のないことだと思います。
総じて天井は地味に押さえたはうが、うまく納まるようではあります。

 匠研究室では、ある場合には屋根の裏側を、そのままみせて天井のかわりとすることもありますし、二階の床の裏側を一階の天井とすることもあります。
また、デザイン上の問題としてではなく、建築費が少ない場合にも、よく天井は省略します。
しかし、大工たちは前述のように、みえる場合はきれいに仕上げなければならないという感覚をもっていますから、かえって天井を張るほうが手間がかからなかったなどという、グチをいわれることすらあります。

 家は機能だという主張は、本当に根強いものがあります。
しかし、天井の発生をみてもわかるとおり、歴史は家が必ずしも機能にこだわらないことを示しています。


「タクミ ホームズ」も参照下さい

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