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５．男性の肉体の裏切り 男性にとって快感をより高める、もしくはより大きな快感を入するには、肉体への集中では限界がある。 激しく快感を求めると、たちまち射精してしまって、そこで男性の快感は雲散霧消する。 つまり、自分の肉体で快感を入手するには限界があり、肉体が肉体を裏切る。 しかも、自分だけの快感に走ると、相手の女性を置き去りにすることになる。 男性が１分以内で射精してしまったら、種族保存にはそれでも充分だろうが、関係性の確認としての性交にならない。 むしろ女性にとっては、兆しはじめた性的欲求が解消されず、関係性は悪化しさえするだろう。 とすると、女性が快感にたゆとうあいだ、快感の薄い男性は、冷静に性交運動を続けることにならざるを得ない。 挿入→抽送運動→射精という、男性のみの快感追求は、男女間の関係を壊しかねない。 そこで、関係性を充実させようとしたら、自分の快感を殺して、まず女性の歓びに奉仕する、という姿勢が登場する。 自身の肉体的な快感の追求よりも、精神的な好奇心を満足させることによって、性交を持続させることになる。 山村氏の発言は、自分の快感を殺して、まず女性の歓びに奉仕する姿勢で一貫している。 また、色の道の「通人」といって、女性にもてた男性からも、同じような姿勢を感じる。 女性の歓びに奉仕するという姿勢は、「四畳半襖の下張」にも形を変えて登場する。 男一遍行ふ間に、三度も四度も声を揚げて泣くやうな女ならでは面白からず。男もつい無理をして、明日のつかれも厭はず、入れた儘に蒸返し蒸返し、一晩中腰のつゞかん限り泣かせ通しに泣かせてやる気にもなるぞかし。 という筆者の精神は、自分の肉体的な快感よりも、女性の快感に奉仕する自分を喜んでいる。 男性は明日のことを考えれば、早く眠りに落ちた方が良いことは、充分に承知である。 しかし、女性に快感を与えるために、徹夜も辞さないという積極さである。 女性は、大きな快感と引き替えに徹夜するのだから、性的には見合うかも知れない。 しかし、男性は１度か２度の貧弱な肉体的快感と、引き替えに徹夜する。 女性に性的快感を与えるために、つまり他人の快感のために、徹夜するといっても過言ではない。 肉体的快感としては見合うものはない。 相手の女性も徹夜になるのだが、芸者という職業柄から朝が遅いので、これは男性側の事情である。 男性はほんの一瞬の快感しかなく、しかもそれを何度も体験できないとすれば、肉体以外の分野で快感を補わなければ、男女の良き関係性を維持できない。 肉体以外の分野で快感を追求するとすれば、思考回路以外にそれを補うものはない。考えることによって、肉体的な快感を補いうのが男性であろう。 肉体的な快感を肉体で入手できない男性は、精神作用によって快感を補充する以外に、より深く大きな快感を入手する道がない。 山村氏や永井荷風のように、女性の快感に奉仕するのが、男性の歓びだという認識は、あきらかに精神的なものである。 もちろん、肉体的な快感と精神的な快感の間に、価値的な優劣がないのは当然である。 しかし、質的な違いが生じざるを得ないのは事実だろう。 女性が男性に性的なサービスをすることはある。 女性が売春を業とすれば、男性の性的な快感のために働くことになる。 しかし、本論がいうのは、性交が始まってからの話である。 売る買うといった関係で性交が始まったとしても、当事者に快感が兆しはじめて以降を問題にしている。 「四畳半襖の下張」でもわかるように、男性に性交を売ろうとした女性が、自分の意に反して性的快感を体験することはあり得る。 女性は男性を手早く射精させ、ことを簡単に切り上げるつもりだった。 しかし、当初の意に反して、自分に性的快感が兆しはじめると、男性の性的快感より自己の性的快感に集中する。 そして、性的な快感の大波に飲み込まれると、男性をおいてその追求に専念する。 女性は当初、性的な快感を感得するつもりがなくても、肉体的な反応として肉体の快感を味到できる。 つまり、売る買う関係よりも性交の属性が、女性の肉体的反応を決めてしまう。 それが結果として、男性へのサービスになっている。両当事者が満足しているのだから、この結果はもちろん絶対的に肯定される。 しかし、少なくとも当初の女性の意志とは違っている。 男性が売り手になった場合には、勃起できるかが問題である。 余談ながら、男性はしばしば勃起不全に陥る。 男性売春夫が勃起不全になった場合、結合なしのサービスにならざるを得ないが、女性客は勃起しない男性売春夫を許すであろうか。 時代が進んで、女性が色の道の「通人」になれば、男女の性的違いを認識し、男性売春夫の勃起不全に寛容になるだろう、と思う。 本題に戻って、勃起さえすれば結合が可能である。 男性の場合も性器の結合が、決定的な性的快感をもたらすわけではない。 だから、平常心で性交運動ができる。 男性売春夫の意に反して射精してしまわなければ、女性へのサービスに徹して、彼は性交運動を制御するだろう。 早漏では女性客が満足しないだろうから、男性売春夫は自分に性的快感が兆し始めたとしても、射精を引き延ばそうとするに違いない。 そのため、男性には前述のような逆転は起きない。 ここに、男女の大きな違いをみるのである。 |
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