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JICPAジャーナル(編集:日本公認会計士協会)第一法規出版に連載したものです。 |
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第10回 デジタルな制御 農業が主な産業だったアナログ時代、自然の掟に従うことが人間の生きる術でした。やがて、人間は自然に働きかけて、人間の意志や希望 を実現させる技術を生みだし、自然を加工することを知ります。 それは産業革命という工業社会の幕開けでした。 と同時に、それは連続的発想から断絶的発想へ、つまりアナログからデジタルへの転換でもありました。 アナログな制御 アナログ時代には、離れた所にある物を、自分の意のままに動かすことは難しいことでした。 たとえば、自宅から水車の動きを調節することはできません。 人間が水車小屋に行って、水の流量や杵の重さを調節しなければ、水車の動きは加減できませんでした。 また水力や風力以外に動力といえば、牛馬か人力でしたから、物を運ぶのにもすべて人間が、直接的にかかわる必要がありました。 水まかせ風まかせの帆船ではなく、人間の作った線路によって、どこへでも大量の物を運べるようになりました。 ここで物と人間の関わりが間接的になり、人間と物の距離が離れてきました。 ところで、 物を積んだ貨車は、行き先別に編成される必要があります。 列車や貨車の行き先を分けるのは、操車場のポイントと呼ばれる分岐点です。 アナログ時代の鉄道では、ポイントの近くに係りの人が立ち、行き先に従ってポイントを人力で切りかえました。 やがてポイントの切り替えは、操車場の監視室から遠隔操作されるようになります。 監視室には人の背丈ほどもある大きなレバーが立ち並び、男性の駅員が全身の力をこめて操作しました。 レバーの先には鉄のパイプが取り付き、梃子の原理などを使って、レバーの操作が操車場のポイントまで次々と伝達されました。 これにより離れた場所へと力を伝え、目的とした仕事を完成させることが可能になりましたが、この時代には力と人間の意志は分離していませんでした。 断絶的連続の成立 ジェイムス・ワットによる蒸気機関の発明から約百年後、耳の遠い児童への教育のかたわら、1875年にグラハム・ベルが電話を発明します。 電話の発明は遠く離れたものへ、人間の意志を作用させる最初の機械的な仕組みでした。 電話の原理によって、遠隔地へ人間の意志を伝えるという概念が芽ばえたのですが、離れて制御するのが大きく開花するのは、デジタルの登場を待たねばなりませんでした。 ところがデジタルな世界では、作用としての力と仕事をさせる意志は分離します。 デジタルな世界では、人間の意志や命令を、その出発点で 0 か 1 の数字に置きかえます。 そして、0 と 1 で構成された情報=意志を電気的な ON や OFF にかえ、電線や無線を通して力の効力が発揮されるべき場所へ運びます。 情報の到達点で 0 と 1 の数字を読みだして、力に戻してやれば期待した仕事が実現されます。 宇宙空間を航行するロケットで、それは壮大に実証されています。 鉄道のポイントも同様です。 いまや線路の脇には、力を伝達する棒やワイヤーはありません。 監視室からのデジタル信号が、ポイントの近 くで力に変換されてポイントを動かしています。 人力による手動制御やアナログの自動制御をへて、コンピューターを使って 0 と 1 の数値で制御する NC=Numerical Controlと呼ばれる数値制御が登場しました。 0 と 1 という断絶した数の連なりが、自然を細断しながら、同時に離れたものを結びつけます。 断絶させることによって連続するデジタルな社会の始まりです。 デジタルな世界では、人間の意志と力の作用点が完全に離れても、決して断絶してはいません。 アナログ時代のレバー操作には、それなりの腕力が必要でしたが、デジタル信号を送るのには小さなスイッチを押すだけです。 誰にでもできるスイッチの操作が、人間の意思を伝達し、人間と離れた物を結びつけます。 自然を断絶的連続ととらえ、力=仕事と意志=情報を分離して考えることによって、腕力が不要になりました。 人間の体がアナログであることは、古今東西にわたって不変でありながら、デジタルな視点を使うことによって老若男女の誰でもが、自分の能力を発揮できる時代が来ようとしています。 |
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第11回 情報社会の家族へ進む