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JICPAジャーナル(編集:日本公認会計士協会)第一法規出版に連載したものです。 |
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第2回 デジタルの歴史 大昔から、焼き物は作られてきました。炎の色で窯の温度をおしはかり、太陽の位置で時刻を知っていたのが、大昔の人々です。 ところ で、今でも炎の色で温度をみているのでしょうか。 現在では、温度計を使っているに違いありません。 では時間は、どうやって計っているのでしょうか。 これも 時計を使っているでしょう。 水銀の伸びぐあいで温度を示し、針で時刻をさしたとしても、数字で表すという意味では、温度計や時計はデジタルなものです。 デジタルとは数字だとすれば、デジタル的思考はいつ頃生まれたのでしょうか。 錬金術が開いた世界 鉄や鉛などから金や銀などが造れたら、どんな に良いだろうか。 金や銀がたやすく手に入ったら、大した価値はないにもかかわらず、誰でもがそう考えたに違いありません。 貴金属へのあこがれが、錬金術を うみだしたのでしょう。 錬金術ときくと、手品か魔術のような気がして、およそ科学とはほど遠い感じがします。 しかし、万有引力の発見者であり、英国王立学 会の会員だったアイザック・ニュートンも、錬金術師であったと知ったらどうでしょう。 きっと錬金術を見直すに違いありません。 錬金術では、可能性のありそうな組み合わせを、すべて試してみることが不可欠でした。 成分や分量そして条件を少しずつ変えて、何度も 試してみる。 それには、カンにもとづく目分量ではなく、精確に計量された数値が必要でした。 無限の繰り返しを、人間の頭がすべて記憶するのは不可能です。 きちっと材料を計り、混ぜ、加熱し、抽出し…こうした過程は、膨大でしかも正確な数字で管理されました。 今日でこそ錬金術は、誰も見向きもしませんが、天文学と並んで錬金術こそ、近代の科学を生みだす揺り籠でした。 1687年に完成したニュートンの「プリンキ ピア」の正式な題名が、「自然哲学の数学的原理」だと知ったら驚きませんか? 「われ思うゆえに、われ在り」で有名なデカルトも、哲学者であると同時に数学者でした。 1781年に「純粋理性批判」を書いたエマニュエル・カントは、哲学者として有名です。 しかし、彼には「天界の一般自然史と理論」という著作があり、若い頃は数学と物理学の研究者だったことを、知る人は少ないでしょう。 錬金術が隆盛を極めた時代に、数字を積み重ねて結論に至ろうとしたことは、明らかにここでデジタル的思考が生まれています。 産業革命が始まるずっと前、つまり近代がやっと胎動を始めた頃に、デジタル的思考も産声を上げたと言って良いでしょう。 1760年頃から1830年頃にかけて、イギリスにおける紡績機械の改良に端を発し、経済・社会組織が飛躍的な変革をとげたのを、産業革命と呼ぶのは周知の通りです。 何の前触れもなく産業革命が実現したのではなく、そこに至るにはさまざまな発見や発明が先行しています。 まず、時間を数字で表す機械式の時計が普及するのは、1700年頃です。 時計の普及で、変化の過程を数値化する規準ができました。 そして、酸素が発見されて、物が燃える 原理がわかるのは、1700年代の後半です。 ここで成分の数値化が始まります。 今日では、焼き物を化学変化ととらえ、酸化還元の過程だと考えますが、その 萌芽はこの時に生まれています。 その後、自然や環境のなかに規則性を見つけ、今日につながる科学の法則が大量に生まれます。 これらの多くは、神の御手にあった自然を 細分化し、対象の変化を数値で表したものです。 ですから、世の中に起きる現象を細かく分析し、それを数値化し、そのなかに規則性を捜すという作業が、近代 の工業社会を開いたと言っても過言ではありません。 もちろん、この時代の数値化は幼稚で、とても人間のカンにはかないませんでしたから、アナログかデジタ ルかと言った話題が、人の口に上ることはありませんでした。 近代的工業が実現した世界は、それまでの農業を中心とした社会とは違って、圧倒的な力を持っていました。 ですから、近代において新たな発想が芽ばえたという意味で、デジタル的思考が生まれたとも言えるし、デジタル的思考が近代を切り開いたとも言えるでしょう。 デカルト、パスカル、 ニュートンと言った近代に先立つ偉人たちが、哲学者であると同時に数学者でもあったように、近代こそデジタルなる数字と数値的思考の揺籃期でした。 |
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