アナログとデジタルの融合
by  匠 雅音   2000年1月〜12月

JICPAジャーナル(編集:日本公認会計士協会)第一法規出版に連載したものです。


目      次
第1回 焼き物の世界 アナログとは?デジタルとは? 連続か 不連続か
第2回 デジタルの歴史 錬金術が開いた世界 デジタルが近代を開いた
第3回 ハードウェアとソフトウェア コンピューターとは何か コンピューターは電脳か
第4回 0 と1 のデジタルな理解 デジタルな理解 0と1の世界
第5回 断続的なデジタル すべては点へ 極限的現実とは
第6回 人工知能 右脳と左脳 思考とは手順か
第7回 デジタルの恩恵 わかったこと 無限量から質へ
第8回 肉体と頭脳 腕力の無化 仕事と余暇的運動
第9回 デジタルな年齢秩序 体験の農業社会 年齢秩序のフラット化
第10回 デジタルな制御 アナログな制御 断絶的連続の成立
第11回 情報社会の家族 アナログ時代の家族 デジタル時代の家族
第12回 互いに補完的な関係 工業社会は首の時代 デジタルを支えるアナログ

第3回   ハードウェアとソフトウェア 

 近代こそデジタルなる数字と数値的思考の揺籃期だった、と前号に書きました。
幼稚だったデジタルや数値的思考が、人間のカンの代打になり得るようになったのは、何といってもコンピューターが登場したからでしょう。
では、コンピュータとはいったい何でしょうか。

コンピューターとは何か

 コンピューターを辞書で調べると、計算機もしくは電子計算機とあります。
コンピューターが計算機という意味なら、そろばんもコン ピューターでしょう。
1800年代の中頃、イギリスの数学者チャールス・バベッジが、歯車式の計算機を作っています。
きわめて精巧なこの試みには、コン ピューターの原型が詰まっており、多いに敬意を表しますが、まだコンピューターとは呼べません。
ただし、これが電子式ではなく機械式だから、コンピュー ターと呼ばないわけではありません。


 1919年には、真空管を使った計算機が生まれます。
そして、バベッジの試みから約一世紀後、1940年代に世界で初のコンピュー ターENIACが、アメリカで生まれます。
大砲の弾道計算のために生まれたENIACは、真空管を18,000本も使った総重量が30トンという巨大なも のでした。
ENIACによって、今日にいうコンピューターの計算・判断・記憶ができるようになりました。
コンピューターと計算機の違いは、コンピューター が電脳とも呼ばれるように、プログラムつまり仕事を処理する手順系列を内蔵しているか否かです。

 大型コンピューターの誕生をもって、デジタル時代の幕開けと言うにはいささか抵抗があります。
大型コンピューターの扱いには、専門的 な知識が要求され、我々素人の手におえる代物ではありません。
大型コンピューターは、多くの端末を従えたピラミッド型のシステムで、閉じられた系のなかで信号が行き来するものでした。
そのため、限られた分野でのみ使われ、市井の生活には無縁のものでした。


 パソコンと呼ばれる個人用のコンピューターが登場するに及んで、事情は一変しました。
安価ではあってもパソコンは立派なコンピュー ターで、昔の大型コンピューターに匹敵する能力を持っています。
そのパソコンの内部も、電子回路で構成されていますが、物体としてのコンピューターは塊でありアナログ的存在です。
電子回路のなかを、断続的に流れる信号こそ、デジタルと呼ぶべきです。
ここで、長い年月かかって構築されたデジタルなる世界が、 急に身近になってきました。

コンピューターは電脳か

 コンピューターは大きく分けて、二つの部分からできています。
ハードウェアと呼ばれる電子回路やモーターといった機械部分と、その機械を制御するプログラムつまりソフトウェアです。
どんなに高価なハードウェアでも、ソフトウェアを入れないことには、何の仕事もしません。
多くの機械には、決められた使用目的がありますが、ハードウェアには特別な使用目的はありません。
ハードウェアの使用目的を決めるのはソフトウェアで、ひとつのハードウェアに対して、無数のソフトウェアが作られています。

 我々がパソコンを使うとき、ハードウェアの内部では、ソフトウェアによって制御されたデジタルな信号がかけめぐっています。
ハードウェアをどう使うかを決めるのはソフトウェアであり、ソフトウェアの開発こそ、ハードウェアに無限の用途を開きます。
インターネットにしても、ホームページの中身つまりソフトウェアが、面白くなければ無価値です。
ハードウェアとソフトウェアがそろって、初めてコンピューターは電脳と呼べるのであって、コン ピューターを生かすも殺すもソフトウェア次第です。

 人間の脳細胞のなかでも、信号がいきかっていますが、私たちはその信号を感じることはできず、信号を言葉におきかえて理解しています。
同じように、コンピューターが認識できない回路内の信号を、理解できるようにおきかえるものがソフトウェアです。
誤解を恐れずに言えば、コンピュー ターにとってのソフトウェアとは、人間にとっての言葉と同じものです。


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