家を建てようとする方へ:発注する前に  第2部

目    次
  第1部
はじめに 1.建築界の仕組み 2.一軒の家 3.時代が変わった
  第2部
4.設計の限界 5.家は商品か 6.設計を支えるもの

6.設計を支えるもの

 家とは何か。やっと、ここで家の設計について、語ることができるようになりました。
本来、家作りとは家についてのイメージ=主義・主張があって、それに従ってすすめられます。
けれども往々にして、物としての家に目が向いてしまい、イメージとしての家にはなかなか考えが向きません。
ツーバイフォー在来工法とは、どちらが優れているかとか、鉄骨造と鉄筋コンクリート造ではどちらが良いか、内断熱外張断熱ではどちらが快適かといった、いわば物としての優劣はほとんど意味がありません。
なぜなら、どちらも優れているからです。

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 家の設計は機能だ、使い勝手を最優先すべきだという説もあります。
もちろん機能も大切であることは否定しません。
しかし、住宅の機能とは一体なんでしょう。
必ず開閉する扉、スイッチを押すとつく電灯、ひねると水がでる蛇口…こうしたものでしょうか。
それとも食堂のとなりには台所があるとか、脱衣室に続いて浴室があるといったことでしょうか。
どちらにしても、機能をただ機能としてだけ語ることはできません。
どんな機能もある考え=主義・主張に支えられています。
家作りにたいする考え方を、ここでは家の設計思想と呼びたいのです。

 家の設計というと、方眼紙に半畳のマス目を区切って部屋割りをすること、つまり間取りを考えることだと思いがちです。
しかし、「よい家ですね」と発せられる言葉は、はたして間取りに対して言われるのでしょうか。
おそらく間取り対して言われているのではないでしょう。
なぜなら、家は一度完成したら、もう間取りを全体的に見ることは出来ないからです。

 設計の時は、この部屋のとなりにはこの部屋で、東のはしに玄関をもってこようなどと頭をひねって、紙のうえに間取りを書いてみます。
建築主は誰でも、この時期が一番楽しいものです。
そのため、間取りを考えることが最も大切で、間取りさえ決まってしまえば、あとは自動的に家が建つと考えているかも知れません。
方位を気にしたときでも、間取りだけを対象にしているようです。

 

 たしかに間取りは、家作りの重要な一部ではあります。
けれども、すべてではありません。
左図を見てもわかるように、同じ間取りでもまったく違う家を作ることも可能です。
ですから、「よい家ですね」という言葉は、間取りにたいして言われているのではなく、その家の雰囲気にたいして言われています。

 これが雰囲気だ、と一言では言い表せない何かにたいして、私たちは喜んだり感動したりします。
家のもつ外観や、内部の雰囲気が語りかけてくる、得も言われぬ感じが家にとって非常に大切なのだ、と匠研究室では考えています。

 一軒の家の雰囲気を決める要素はたくさんあり、これが決定打だとはなかなか決められません。
家の形や使ってある材料、屋根の様子や周囲の環境も、その家に影響を及ぼしているかも知れません。
もちろん、間取りも大切な要素の一つです。
結論をいうと、こうした要素をバランスよく組み合わせていくことが、家作りだと思います。

 どんな場合でも、何かを組み合わせていくには、どういう方針に従っているのか、組み合わせる核となるイメージは何か、というのが問題になります。
無意識になされる簡単な作業でも、必ず中心のイメージがあり、その実現として具体的な材料があるはずです。
まず物としての材料があってから、イメージがそれを後追いすることは決してありません。
たとえば、木を使った工作を考えてみても、頭の中では一度材料を追い出して、イメージを先行させているはずです。

 家作りはまさに全体的なイメージの実現です。
自分の家はこういうものだ、というイメージに従って家作りは進行していきます。
自分はどういうイメージの家を求めているのか、どういう雰囲気の家を作りたいのか、。
それが伝えられればよいわけです。
そのイメージを施工者に伝えることができれば、設計の半分以上は終了しています。

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 イメージの実現でありながら、絵画や彫刻といった他の表現とは違って、家はその中で人間が生活することを前提にしています。
自分の外に作品として完結するのではなしに、その中で日常生活を行わなければなりません。
そのため家はそこに住む人の住み方と、非常に密接な関係をもっています。
画家や彫刻家の場合には、どんなに前衛的なコンセプショナル・アートを実践しても、家に帰ると日本酒をコタツで飲むという生活も可能です。
しかし、家は生活そのものです。

 家にたいするイメージは、どういうライフ・スタイルつまり人生観を持つかということです。
それが家作りのもっとも重要な基本です。
ソフト・ウエアーとしての家作り、つまり設計思想とはそうしたものです。
家作りとは人生にたいする価値観の表現そのものです。
ライフ・スタイルというと、具体的ではないように感じられるかも知れません。
利休好みの茶道具といった意味でのあなた好みの生活というと、少しはっきりしてきたでしょうか。

 家作りとはシステムキッチンやオール電化住宅とは、本来まったく無関係です。
むしろ、システム・キッチンが流行ると、いつの間にかシステム・キッチンは高級品であるかのごとくに感じさせてしまう商魂と、はっきり決別するところで、初めて設計が語れます。

 では、匠研究室の考える家作りのイメージとは如何なるものでしょうか。
それは「建築への招待」へ戻って、「考える家:気配の住宅論」をご覧下さい


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「タクミ ホームズ」も参照下さい