家を建てようとする方へ:発注する前に  第1部

目    次
  第1部
はじめに 1.建築界の仕組み 2.一軒の家 3.時代が変わった
  第2部
4.設計の限界 5.家は商品か 6.設計を支えるもの

2.一軒の家   その1

 昔から「家作りは大工」とすぐにつながるほど、家作りと大工の関連は深いものでした。
大工の腕の良し悪しが、家の出来具合に、決定的な影響をもつと考えられていました。
それは本当の話で、木造住宅の場合は工期的にも金銭的にも、家作りの半分近くを大工の手に委ねています。

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 ですから、今でも家作りの要は、大工であることは間違いありません。
通常は、大工以外の職人に家作りを頼むことはありません。
たとえば、家作りには欠くことの出来ない左官屋や電気屋であっても、彼等に家作りを発注することはありません。
けれども、大工だけで家が完成するかというと、当然そうではなく、大工以外にもたくさんの職人が必要なことは当たり前です。

 以前は、常傭(じょうやといorじょうよう)といって、完成まで1日いくらという日当払いで、職人を使う発注形式をとっていました。
そのため、建築主がさまざまな職種の職人に、直接仕事を頼む分離発注形式もありました。
しかし、現在では1軒総額でいくら、といった形での一式請負形式がほとんどです。

 家作りには、たくさんの職種が必要ですが、その元締めに大工がいます。
つまり、大工は木部担当労働者であると同時に、請負者つまり元請けでもあります。
建築の世界は分業が確立しており、1軒の家が完成するまでには、約20種類くらいの職人衆が入ります。
それをまとめたのが、次の表です。

測量 解体・整地 仮設(鳶職) 杭工事 木工事(大工) 鉄骨工事
コンクリート工事 屋根工事(瓦屋) 左官 畳工事 内装工事 板金工事
建具屋(木製建具 サッシ屋(金属建具 ガラス工事 石工事タイル工事 塗装工事 家具工事
電気設備工事 給排水設備工事 空調設備工事 ガス設備工事 植木屋 建材屋

 家を建てようとした建築主の意志は、工務店(大工=元請け)から下請けの親方へ、そして現場の職人へ、はたまた孫受けの職人へといった具合に流れていきます。
この命令経路と同じ方向に、その労働報酬としてお金が流れていきます。
建築主から頂いたお金を、元請けである工務店(大工)がそれぞれの職種に分配していきます。

 世の常として、お金をもらうと責任が生じてきます。
元請けは建築主に、職方(=各種の下請け)は元請けにと逆送りに、仕事を完成させる責任が生じます。
ここで注意していただきたいのは、職方は建築主に責任をとるのではなく、あくまで元請けの大工なり工務店なりに責任をとるだけだということです。

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 ですから、たとえば建具屋が怪我をして現場に出られなくなると、元請けは別の建具屋を連れてきて仕事を継続することができます。
もし、その建具屋が忙しくて、別の建具屋に下請け(元請けから見ると孫請けになる)にだしたとすると、孫請けは元請けに対してではなく、下請けの建具屋に責任をとることになります。
なぜらな、孫請けは元請けから直接お金をもらうわけではないから。
こうして元請け、下請け、孫請け、曽孫請けというかたちで、元請けを頂点としたピラミッド型の体系が、一軒の家を作るために働きます。

 家を建てるあなたにとって、ここで少し厄介な問題が起きています。
それは、あなたの家作りは、一生に一度の大仕事ではありますが、職人たちにとっては、それが毎日の仕事だと言うことです。
職人とても人間ですから、お金をもらって生活しています。
誰から、と言って元請けからもらう以外はありません。
そこで職人たちは元請けの指示に従います。

 職人たちはあなたの家だけを作るのではありません。
職人の商売と生活は、毎日の継続の上に成り立っています。
たとえ、今回だけ例外的に建築主のあなたから直接お金をもらったとしても、元請けや一緒に仕事をしている他の職方の意に反したことをするでしょうか。

 あなたの家を作るときは、あまり儲からなかったけれど、次の家作りの時に、その分を儲けることができれば良いと考えるでしょう。
また逆に、前回は少し赤字だったから、今回のあなたの家作りで埋め合わせをしようと考えても、何の不思議もありません。

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 職人たちは大元締めである建築主のあなたと衝突することは、元請けの工務店や大工が困るから平静に仕事をしているわけです。
もちろん職人衆は、仕事が好きです。
けれども、それが建築界のルールをはずれては仕事が継続できません。
あなたの家作りもそれを無視しては、実現不可能です。
継続性のある元請けが職人たちのお得意さまであり、建築主が職人たちのお得意さまではありません。
あなたがお客として接することが出来るのは、元請けである工務店だけです。

 良い元請けは、良い下請けをもっています。
建築主の意向が、順当に各職人へと流れるように、自分の組織をいつも点検し、下請けをきっちりと教育しています。
ですから、建築主であるあなたは、元請けにあなたの意見をどんどん言って、充分に理解させるべきです。

 木造住宅の場合、以前は大工が元請けを兼ねていました。
棟梁と呼ばれる大工の町は、自分で道具を持って仕事もしますが、同時に大勢の職人を統率する元請けでもありました。
棟梁の意に反しては、どんな職人も家作りの現場に入ることは出来ませんでした。

 最近では、元請けとなる者が大工棟梁だけではなく、不動産業者や材木屋など他の人もなるようになったため、大工棟梁と元請けは必ずしも同じ人とは限らなくなってきました。
けれども、いずれにせよあなたが直接に相手にするのは元請けです。
ですから、良い元請けにあうことが、いかに大切だかお判りでしょう。


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「タクミ ホームズ」も参照下さい