家を建てようとする方へ:発注する前に  第2部

目    次
  第1部
はじめに 1.建築界の仕組み 2.一軒の家 3.時代が変わった
  第2部
4.設計の限界 5.家は商品か 6.設計を支えるもの

5. 家は商品か   その1

 あなたは今住んでいる場所、もしくは今住んでいる街が好きですか。
今の場所に終の棲家を持ちたいですか。
その街の住人として、一生そこに住み続けすと思いますか。

 昔なら、その土地に生まれ、その土地で一生を終えていくのは、何の不思議もないことでした。
しかし、現代人とくに都市生活者は、こうした質問に素直にイエスと答えられなくなっています。
会社員なら転勤があるし、また道路の拡幅や新設で、否応なく移転しなければならないこともあります。
今の場所に生まれたときから住んでいる人は別として、現在の場所に引っ越してきた人の場合、その場所を選んだ理由は一体何だったでしょう。
多分、生活に便利だからという理由が多いとは思います。

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 しかし、よく考えてみると、その理由は偶然だったのではないでしょうか。
同じくらいに便利なところなら、他にもあったでしょう。
むしろ、引っ越してきたときは、不便で仕方ないところだったかも知れません。
それが最近ではたくさんの家が建ち並び、便利になったというのが真相かも知れません。

 今のここも長く住んできたので、それなりの愛着がでてきた、なんて場合もあるかもしれません。
いずれにせよ、この場所、その街にそれなりの愛着があるけれど、何もここに執着することも、ないといえばない。
でも、今は引っ越す理由もないからここに住んでいる、といったところが本音ではないでしょうか。

 家は土地についています。
モービル・ハウスという移動可能な家もありますが、通常の家は移動できません。
ですから敷地を決めるのは、大変おおきな意味を持っています。
家を考えることは、敷地を考えることを含むのですが、敷地の問題はまた後で考えることにして、ここでは家=建物だけを考えます。
というのは、私たち設計者が敷地選びから参加できることはまれで、敷地は予算と同様に所与の場合がほとんどですから。

 自分の家。
自分の気に入った家は、他の人も気に入ってくれれば言うことはありませんが、そんなことはわかりません。
自分の家を自分の気に入るように作るのは、自分が住むという前提があるからこそ可能です。
もし、この家を誰かに譲ろうかとか、転売しようかと考えていれば、家はずいぶんと違って見えてきます。

 自分が住んでいるあいだは快適に住みたい。
自分の家族構成にもあわせたいし、自分の趣味にあった雰囲気にしたい。
自分の住むあいだはそれで良いでしょう。
けれども、他の人に譲ることを考えたら、自分の好みだけを優先するわけにはいきません。
他の人に譲る=転売することを考えると、転売しやすくしておく必要が生じます。
つまり売りやすくする、それは言いかえると、家を商品としてみています。

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 今まで、かけがえのないあなたの家作りをめざして、話を進めてきました。
もちろん、商品としての家でも、あなたのための家でも、同じように考える部分はあります。
たとえば、雨がもらないとか、シロアリ対策をきちんとするとか、防音に気をつけるとか、いわゆる家としての性能にかんする部分は同じです。
誰が住んでも、それ相応の性能が要求されます。
しかし、性能だけで家は作られているのでしょうか。
同じ車でも価格に非常な開きがあるのは、車の走って曲がって止まるという性能だけに、買い手は注目するのではないからだと前述しました。

 家の性能とは何か。
もし、それが物理的な快適さだと解釈すると、家は完全冷暖房付きのトーチカを理想とするでしょう。
いまでこそ省エネルギー住宅といわれますが、住宅の性能を支える要素は不変ではありません。
オール電化住宅が流行っていましたが、大震災後には、自然エネルギーが大切だと言うことになりました。
むしろ性能を考えることから、一歩離れて見ることも意味があることだと思います。
そして、最後に性能のチェックをしましょう。

 かけがえのないあなたの家とは、一体なんでしょう。
転売されることを考えると、家は商品になるといいました。
商品としての家とは、建て売り住宅がそれに当たります。
転売がしやすいためには、誰にでも好かれそうな家でなければなりません。
けれども家作りとは、そもそも何だったのでしょう。
車のように転売や下取りを考えて、家は作られるのでしょうか。
家が商品だとすれば、商品価値の下がらないもの、つまり、建物ではなしに土地の方へ考えの中心が向いていきます。
最近では土地も値段が下がっていますが、建物のそれに比べたら問題ではありません。
多くの建物は20年もすれば、評価額はゼロです。

 誰にも好かれようとするする家は、当然のことながら、没個性的になっていきます。
建て売り住宅のように、誰にでも気に入られそうで、その実誰一人として本心からは、好きになれない建物。
そうした物をあなたはご希望ですか。

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 自分の家が欲しい。こう考えたとき、あなたにだけ気にいった家ができればいい、と思ったはずです。
もちろん、他に人も気にってくれ、誉めてくれればなお良いけれど、他の人が住む家ではありません。
転売のためなど考える必要はありません。
自分が気に入る、これを作ればよいわけです。

 しかし、実は自分の好みや個性を、設計者や職人に伝えるのは大変困難です。
各人が持っているイメージを他の人に伝えるのは、並大抵の努力では不可能です。
古くからの友人でも、時折新しい面を発見して驚くことがあるくらいですから、ましてや家作りのために新しく知り合いになった人々と、充分な意志の疎通をはかるのはとても大変です。

 正直に言って、建築主はイメージを伝える手段、たとえばスケッチや図面を描くという手段をもっていません。
多分、建築関係の雑誌を見て、こんな風が好きというのが最大限でしょう。
建築主たるあなたは、自分の好みに家を手に入れるためには、絶望的な状況から出発しなければなりません。

 新しく知り合った家作りの専門家たちの言うことを簡単に了解すると、家が出来てからとんでもないことになります。
こんなはずではなかったと、ほぞをかむ思いをしている例を、たくさん知っています。
大工に発注した場合はまだリスクが少ないのですが、建築家に設計依頼をした場合は危険度がまします。

 建築家は一面では芸術家でもあり、家とはかくあるべしという自分の主義・主張をもっています。
そして、その主張をそれぞれの場合に応用します。
ですから、建築主と建築家の主義・主張がひどく違ったときは、惨状を呈することになります。
しかし、優れた建築家であればあるほど、自己の主義・主張を鮮明に語り得るものです。

 あなたが家作りに成功するためには、もう一度「家とは何か」と考えてから、結論にすすでも遅くはないと思います。
家とは何かを考えるとは、主義・主張の確認という作業です。


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「タクミ ホームズ」も参照下さい