家を建てようとする方へ:発注する前に  第2部

目    次
  第1部
はじめに 1.建築界の仕組み 2.一軒の家 3.時代が変わった
  第2部
4.設計の限界 5.家は商品か 6.設計を支えるもの

4.設計の限界   その1   

 家作りで、まず最初に考えられることに間取りがあります。
住宅の設計というと、間取りを考えることだと誤解されるくらいに、間取りという言葉にはなじみがあります。
その間取りについて、いかに最近の家作りにたいする考え方(設計する姿勢)が、変わってきたかを見ていこうと思います。

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 日本各地にある民家園で保存されている民家は、ひどく古い建物のように感じるかも知れません。
しかし、実はつい最近まで実際に使用されていたものばかりです。
建物が完成したのは200年以上も昔ですし、住み始めたのも200以上も昔のことです。
しかし、死滅しつつある民家は、200年以上の長きにわたって、実際の使用に耐えてきました。
民家はつい最近まで実際に住まれていたのです。
だから木造の住宅は長持ちする、といった木造礼賛をやるつもりはまったくありません。

 200年のあいだには、何年かごとに各部の修理を、実に丹念にやったに違いありません。
家の維持、管理には大変な神経を使っていたはずです。
古いだけならパリのアパートは、日本の民家と同じ時代に作られたものがたくさんあります。
それらは現在も取り壊されることなく、実際に住み続けられています。

 家が物理的にもったことはさておき、ここで強調したいのは200年にわたって使われたことです。
家の物理的な寿命だけなら、民家はまだこの先100年はもつと思います。
しかし、それが住まわれず、どんどん壊されています。
その上、それに代わって建てられている住宅は、ああした民家よりはるかに短命だと知っています。

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 にもかかわらず、今風の住宅へと移り住んでいます。
いったいなぜでしょう。
家の耐久性だけを問題にするなら、民家は200年の保証付きですから、同じように作ればいいわけです。
匠研究室には、その技術は今でもあります。
けれども、「使いづらい」「不便だ」といわれ、何としても捨てられていく運命のようです。

 昔の家作りと最近のそれとのあいだには、決定的な違いがありました。
材料や工法の違いをいっているのではありません。
新しい材料もたくさん登場しています。
しかし、瓦のように千年以上も変わらずに使われている材料すらあり、材料は大筋では変わりがなかったと言っても過言ではないでしょう。
決定的な違いとは、昔の家の間取りがそこに住んでいる人間たちと、ほとんど関係がなかったという事実です。
比較的に上層農民の家だったと思われる日本民家園の建物を見て思うのですが、そこで生活していた人員構成と間取りがうまく結びつきません。

 
関東地方の典型的な民家の間取り

 大家族制のもとでは、一軒の家に何組かの夫婦が、一緒に生活していたはずです。
単純な間取りのなかで、誰がどの部屋を占めていたか、具体的に想像できません。
もちろん、デイと呼ばれる囲炉裏のある部屋には、人々が集まって団欒をしただろうとか、ヘッツイ(=かまど)では炊事をしただろうとか、いわゆる設備に関係する部分はよく判ります。

 けれども、もし自分があの家で生活するとしたら、どこに寝るのだろうかと考えると、もう判りません。
もし、お客が来て泊まることになったらどうするのだろう。
長い間には、おそらく家族の人員は増減したことでしょう。
しかし、変わらない一軒の家を、長年にわたって住み続けました。
そこで考えられるのは、間取り人員とは関係がなかったということです。

 昔の家の間取りを見ても、そこで何人の人が生活していたのか、ちょっと想像がつきません。
老夫婦はおそらく奥の部屋を使ったことでしょう。
若夫婦はもうひとつの部屋を使っていたかも知れません。
しかし、大家族だったから、たくさんの子供やおじ・おばが同居していたかも知れません。
老夫婦や若夫婦が一部屋を独占できたのでしょうか。
うまく想像できません。
今の私たちが考える間取り、部屋の使い方とは、異なる方法だったに違いありません。


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「タクミ ホームズ」も参照下さい