コンピュータなるもの
川崎八重子 & 匠 雅音

目  次
はじめに 1.コンピュータ前夜 2.錬金術を見なおす
3.アナログとデジタル 4.カンの数値化と数表 5.デジタルが近代を開いた
6.コンピュータの誕生をめぐって 7.コンピュータ・アーキテクチャー 8.ハードウェアとソフトウェア
9.すべてを点として理解する 10.ONとOFFの世界 11.パソコンの誕生と普及
12.インターネットの登場 参考文献

7.コンピュータ・アーキテクチャー
 最初からこれがコンピュータであるという定義があって、コンピュータが生まれてきたわけではない。
コンピュータの発明は、多くの人によって手探りで続けられ、紆余曲折を経て今日のような形になってきた。
だからコンピュータ関係の言葉や定義はとても錯綜している。
しかも、コンピュータの発達は非常に早いので、今やコンピュータにかんするすべてを知る人は少ないし、むしろコンピュータを使って研究する人の方が多い。
そのため、今さらコンピュータとは何かなど考える必要はないとさえいえるが、大枠での考察はあながち不要とはいえないだろう。

 コンピュータと一口にいうが、物としてのコンピュータつまりハードウェアと、論理的な思考システムつまりアーキテクチャーは別の概念である。
アーキテクトといえば建築家を意味するように、アーキテクチャーとは目的物の要求性能を満たすように設計された組織や論理の体系をいう。
建築の世界でいえば、設計をするのがアーキテクトであり、設計に基づいて施工するのは大工である。
アーキテクチャーとは、施工に使うコンクリートや木材とは異なった次元の概念であり、物としての建築つまりハードウェアとは独立した構築のための論理の体系である。

 ハードウェアとしての計算機械のなかで、どのようにデーターを表現し、保存し、処理するかの基本的な論理の構造を、コンピュータ・アーキテクチャーという。
アーキテクチャーとは論理の構造だから、機械式の計算機でも電子式のコンピュータでも同じ論理を使うことは可能である。
しかし、コンクリート建築と木造建築が違う論理で作られるように、それぞれに異なった論理が用意される。

 物としてのコンピュータはハードウェアとよび、論理の体系といった無形のものをソフトウェアと呼ぶが、アーキテクチャーはソフトウェアの別名と考えてもいい。
ただし、特別にソフトウェアといったときは、論理一般というよりハードウェアと対になった概念として使われることが多く、ハードウェアとしてのコンピュータに指示をだし演算の制御をする命令の体系をさすことが多い。
ハードウェアとしてのコンピュータはそれ自体では何の働きもしないただの箱だが、ソフトウェアとの協同作業によってさまざまな仕事をするのである。

 ハードウェアは電子回路やモーターといった機械部分であり、その機械に命令をだし制御するプログラムがソフトウェアである。
どんなに高価なハードウェアでも、ソフトウェアを入れないことには、何の仕事もしない。
自動車や工作機械など多くの機械には、決められた使用目的があるが、ハードウェアというコンピュータには特別な使用目的はない。
ハードウェアの使用目的を決めるのはソフトウェアである。
ひとつのハードウェアに対して、無数のソフトウェアを作ることが可能である。
ハードウェアをいかなる目的に使いその性能をいかに引き出すかは、ソフトウェアの構築如何にかかわっているといっても過言ではない。

 人間の脳細胞のなかでも、見たり味わったり考えたりするために膨大な信号がいきかっている。
私たちはその信号のほとんどを感じることはできず、信号を言葉におきかえて理解している。
同じように、ハードウェアとしてのコンピュータが認識できない回路内の信号を、理解できるようにおきかえるのがソフトウェアであろう。
誤解を恐れずにいえば、コンピュータにとってのソフトウェアとは、人間にとっての言葉と同じものである。

8.ハードウェアとソフトウェア
 ハードウェアは大きく分けると、

      1.入出力装置  2.記憶装置(メモリ ) 3.中央処理装置(CPU )

からできあがっている。

1. 入出力装置とは、人間がコンピュータと情報をやりとりするための入口と出口で、入力装置としてはマウスやキイボードなどが、出力装置としてはモニターやプリンターがそれにあたる。また、ネット回線も入出力装置の一種としてみてもよい。

2. 記憶装置(メモリ)とは、ハードウェアに行わせる作業手順つまりプログラムや、処理の対象となる情報を記憶する装置である。
内部に装着された主記憶装置(メインメモリ)と外部の補助記憶装置(外部メモリ)があり、前者には電気を使った半導体メモリが使われることが多く、後者には磁気を利用したハードディスク、フロッピィディスク、CDなどがある。
前者は高速で読み書きできるが高価なため、常時使うのだけをメインメモリに納め、常時使わないのは後者に納めるという使い分けがなされている。

3. 中央処理装置(CPU)とは、プログラムという作業手順に従って計算をする装置で、いわばハードウェアとしてのコンピュータの中心部分にあたる物である。
制御装置 と演算装置 から構成されている。
多くのコンピュータは2進法の足し算を基礎にして、ブール によって考案されたブール代数をつかって計算される。
それを電気的な論理積(AND)回路、論理和(OR)回路、否定(NOT)回路として設定し、四則演算やそれ以外の複雑な計算をもおこなう。

 ソフトウェアはハードウェアを制御するもので、物としてのハードウェアに直接働きかけるのが、機械言語と呼ばれる 0 と 1 で書かれたものである。
0 と 1 は電流が流れる流れないに対応しており、機械言語はハードウェアとしてのコンピュータには理解可能であっても、人間が理解するには馴染みがない。
そこで機械言語を、人間に馴染みのある数字や文字に対応させたアセンブリ言語が考案された。

 しかし、アセンブリ言語といえども、まだ馴染みに遠い。
人間の言葉に近い言語で書かれたプログラムを、自動的に機械言語になおしてくれる言語が開発された。
それが Fortran 、Cobol 、Basic 、Pascal 、C言語 などといった高級言語である。
また、より人間の思考に近い Smalltalk 、C++やJava といった言語も生まれている。 
その高級言語で書かれた応用プログラムが、通常我々が使うアプリケーション・ソフトと呼ばれるものである。
ワープロ・表計算から会計ソフト・グラフィックソフトや教育や医療に使うソフトまで、さまざまなものが市販されている。

 我々がコンピュータを使うとき、ハードウェアの内部では、ソフトウェアによって制御されたデジタルな信号がかけめぐっている。
ハードウェアをどう使うかを決めるのはソフトウェアであり、ソフトウェアの開発こそハードウェアに無限の用途を開くのである。
ハードウェアとソフトウェアがそろって、初めてコンピュータは電脳と呼べるのであって、コンピュータを生かすも殺すもソフトウェア次第である。
そして、新たなハードウェアの発明が、それに対応した新たなソフトウェアの開発を呼び、両者は互いに協同しながらコンピュータの利用領域を広げている。

 デジタルとは数字という意味だった。
それが人間のカンの代打になり、いまやコンピュータの電子回路のなかを断続的に流れる電流、つまりデジタルな信号が計算・判断・記憶をおこなう時代になった。 

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