八ヶ岳山麓のガラス箱   No.15 

現場監督さん−その1
 このサイトは設計者が主宰しているので、どうしても設計者から見た建築の話になる。
しかし、設計者は紙のうえに絵を描くだけで、じっさいに物を作るわけではない。
設計者は釘一本打てないし、スコップを持ったこともない。
設計者の仕事は現場で体を動かすことではないので、それで良いのだが、実際に作るのは多くの職人である。
設計者と職人の間に、現場監督がいるのだが、この人が何をするのかは、あまり知られていない。

 おそらく現場監督こそ、口には出さないが、最も設計者を嫌っているのではないだろうか。
<設計者さんは、たまに現場へ来ては勝手なことばかり言う>が本音であろう。
そのとおりで、設計屋とは勝手なものだ。
頭の中で考えたこと、つまり空想の産物を実現しようというのだから、どうしても勝手な言動になる。
むしろ勝手な発言であればあるほど、おもしろ建築ができるかも知れない。
ユニークというのは、勝手に見えるものだ。
ただ使い勝手の良い建物をご希望なら、実物大の実験を繰り返しているプレハブの方が良いだろう。

 空想の産物を実現するには、技術の裏付けが必要である。
幸いなことに設計者も技術の裏付けがあるので、多くの職人や現場監督に手伝ってもらいながら、夢の空想を実現できる。
建築の主の名代として、設計者が現場に出ている以上、現場監督は本音を言わずに、にこやかに設計者=監理者の相手をしてくれる。
そして、現場監督も建築が好きなことは、設計者とまったく変わりがない。
良い建物、おもしろい建物を造るために、現場監督は一生懸命に働いてくれる。
写真撮影はともに現場監督

 今回は、現場監督の仕事を披露したい。
床付け面
の検査で、監理者からOKがでると、現場監督は次の仕事を担当する職人を呼んでくる。
呼ばれて仕事をしているのが、右上の写真である。
この時、現場監督の仕事はというと、写真を撮るのが彼の仕事である。
手前の黒板を入れて写真をとり、監理者への後日の報告に備えるのである。
だから現場監督は、自分で体を動かすことはない。

 写真の職人(白い矢印の人)は、床付け面に砂利を入れて地盤改良をしたあと、鉄筋の下になる部分を均している。
ちなみに、赤い矢印の女性は、かがんだ職人が水平に均せるように、棒をもって補助をしている。
彼女は職人の連れ合いである。
地方に行くと、夫婦で現場に出る人が多く、夫唱婦随の彼らは典型的な共稼ぎである。

 右下の写真は、鉄筋が組みあがっている。
左のすみに移っている職人(白い矢印の人)が、鉄筋を組んだのである。
均す職人と鉄筋を組むのは、違う職種なので別の職人が呼ばれている。
この時の現場監督の仕事は、やはり黒板を入れて写真を撮ることである。

 現場監督は身体を使わない。
彼らは職人と違って、肉体労働者ではない。
現場では写真を撮ったり、指示したりするだけで、スコップを持ったりすることはない。
緊急時に現場監督が直接に手を出すことがあるが、それは現場監督の仕事が上手くいかなかった結果である。
現場監督は職人仕事に手を出すべきではない。

 職人仕事は、それぞれに専門化しており、素人の現場監督ができるはずもない。
むしろ、職人たちが気持ちよく働けるよう、環境を整えることに専念すべきである。
だから有能な現場監督は、職人仕事に手を出さずに現場が進行するよう、入念に工程を組むのである。(2005.04.02)

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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