八ヶ岳山麓のガラス箱  No.23 

泊まりに行く
 やっと完成した建物、すでに建築主に引渡している。
愛着があっても、自分のものではない。
工事中には自由に立ち入れたが、引き渡してしまえば、もはや自由に立ち入るわけにはいかない。
東京近郊に自宅を持つ建築主は、この建物に常住しているわけではない。
寛大な建築主から、いつでも使って良いとは言われていたが、なかなか泊まりに行けなかった。
先週の土日に、とうとう泊まらせてもらうことにした。

 昼過ぎに友人たちと4人で事務所を立ち、3時過ぎに現地に到着する。
まずは1時間ほど、近所の温泉に遊びに行く。
その間に近所の食堂に夕食を頼んでおく。
温泉から上がって、頼んでおいた料理をうけとって、ガラスの箱へと行く。
あいにくと天候が悪く、雨がぱらぱらと降ってくる。
食事の準備とお酒の買い出しに手分けをして、夕食へとなだれ込んでいく。

 まずはビールで乾杯。
雨が激しくなってきた。
ガラスの箱の中から、雨を見る。
ガラスというのは何と快適な物だろうか。
外は雨だというのに、夕暮れ時の雨を楽しむことが出来る。
白い雨が筋になって、目の前を通り過ぎていく。
土の上の雨は、あるものは流れ、あるものは跳ね返る。
決して濡れることのない場所で、ビールを片手に雨の景色を眺める幸福。
徐々に暮れゆく山並み、お酒が進む。

 近所の食堂から調達した夕食もうまい。
友人たちとの話が佳境のうちに、はや誰からともなく寝入っていく。
シャッターを落とさないつもりだったが、雨が激しくなってきたので、寝入る前にシャッターを閉める。

 シャッターを閉めてしまったので、朝になっても明るくならない。
しかし、早起きの友人は、6時には目を覚ましていたらしい。
朝日を浴びながら、風呂にはいる。
すでに雨もあがり、上ってくる太陽が、真正面にみえる。
湯気のガラス、光の中に横たわった明るい浴槽にのんびりする。
気持ちいい朝の風呂に、全員が感動した。
建築主に感謝です。
(2005.10.17)

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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