八ヶ岳山麓のガラス箱   No.10

着工したが、
 建築主が希望しなければ、無神論者の設計者は地鎮祭をすすめない。
黙っていれば、敷地では工事が始まる。
夏草が覆っていた敷地を、整地することから仕事は始まった。


8月頃 11月16日
  
 左が着工前の写真で、右が着工後の写真である。
写真の中央に黄色い建築重機が見える。
この機械で整地した。
蛇や昆虫たちの天国も、人間の力にかかったら、ひとたまりもない。
草に覆われていた敷地は、重機によって赤土が顔を出した。

 建築工事で一番最初にやるのは、建物の位置決めである。
これを地縄を張るというが、おおよその位置を紐などで確認する作業である。
このときには、設計者が必ず立ちあって、図面の検討を行う。
図面の数字で良いか、修正する必要があるか、整地された現場で再度検討する。

 敷地の上で、北西を見て撮った写真である。
右側の重機にむかって伸びている青い線が敷地の境界線で、白矢印で示した薄く見える中央の線が、建物が置かれる位置を示す。
位置に建築が決まれば、地面を掘って基礎工事が始まる。
 地縄を張ることはとても大切である。
設計者は建築主共々、この位置で了承した。
そして、建物の高さ、つまり床の高さを決めて、この日は帰ってきた。

 しかしである。
何だか気になることがあった。
今更と言われるだろうが、再考が必要な気がした。
平面図を見ると、東に水回り棟が来て、北、西、南にガラスがくる。
水回り棟は、窓が少ない。
それに対して、居室になる部屋は3方に開けている。
周りの景色をみると、東と南が見晴らしが良い。
しかも、北西からは、寒い風が吹く。
そのうえ、夏は西日が厳しいだろう。

 水回り棟を西に持ってきて、西日と風をさえぎり、東と南にガラス面を持ってきたほうが良いように思えた。
事務所に戻って、何度も考えた。
悩みに悩んだ末、建築主に電話した。
配置を変えたほうが良いと、事情を説明した。
そして、建築主の了解を取った上で、工事の進行を止めた。 

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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