八ヶ岳山麓のガラス箱   No.08 

確認申請
 建築をする前には、市役所や区役所の建築指導課もしくは県の土木事務所へ、設計図面一式を提出し、関係法令に適合しているかの審査を受けなければならなかった。
かつては建築の確認申請業務は、各自治体の独占するところだった。
それが民間の事業者も、確認申請の審査業務ができるようになった。

 今回の建築地は、山梨県である。
山梨の土木事務所は、確認申請を郵便では受け付けないので、申請書類を持っていくのは大変である。
そこで東京に事務所のある、民間の確認審査機関を使うことにした。
そしたら、これが大正解だった。
今回確認を審査請求したのは、ビューローベリタスジャパン株式会社である。

 9時〜5時の就業時間で、昼の1時間はどんなにお客が待っていても、悠然と休憩を取る景色は民間にはない。
株式会社の社員は役人と違って、お客さんを大切にする。
役所は確認を下ろすという権力的な審査姿勢だったが、民間の機関では関係法令に適合しているかのサービスを売っている。
だから、審査員と設計者はまったく対等である。

 こちらから電話やファックスするだけではなく、審査機関からも電話やファックスがある。
今回は使わなかったが、郵便やインターネットでの受付もできる。
つまり審査機関まで行かなくても、確認申請ができるのだ。
現在の役所は、客に対して丁寧な口をきくようになっている。
しかし、役所は本質的に権力機関であり、公僕意識は薄い。
どんなに慇懃な口調であっても、その下には許認可権を持っているんだぞ、という脅し口調がある。

 許認可権をもつ役所は、全国に適用される建築基準法だけではなく、各自治体が独自に指導要綱なるものを作成している。
国民である設計者が、従わなければならないのは条例までである。
指導要綱は法律ではないので、国民が従う義務もないし、従わせる法律的な根拠もない。
しかし、各自治体は自分たちの行政方針にしたがって、勝手な指導要綱を作って、指導要綱に従わないと確認を下ろさない。

 建築計画が確認されないと、建築できないので、設計者は理不尽な指導要綱にも従わざるを得なかった。
それが民間の審査機関になり、法律や条例など、根拠規定がはっきりとしてきた。
これは民間機関の副産物として、大いに歓迎したい。
行政の恣意的な権力行使から、国民の自由や権利が守られて、実に素晴らしいことだ。
当初はこんなことは予想もしなかったが、今回の審査業務が進むにつれて意外な事実が判明してきた。

 民間の審査機関も、建物が立地する自治体とは協議するらしい。
確認をだしてから暫くたって、役場の担当者から設計書類が欲しい、とお願いの電話がきた。
役場には審査権限がないので、お願いだという。
今後、工事もあるし、建築主も地元に世話になると考えたので、設計書類一式を郵送した。
すると、2種類の「確約書」なるものを提出せよ、と再度のお願いしてきた。

2種類の確約書のうち1通
 担当の女性は、これはお願いであり、強制ではないという。
しかし、確約書が提出されることは、自明のことと考えているようだった。
この確約書はいくら法的な根拠がないといっても、「住宅完成後はただちに入居し、永住することを約束する」といった文面には同意しかねた。
こんな確約書は、設計者の一存では決められない。

 居住の自由は、憲法によって保証されるもので、町役場がこんな確約書をとる根拠は何なのだろう。
それにこの確約書は、誰と確約するのだろうか。
下の住所・氏名には、建築主のものが入るのだろうが、相手は誰なのか不明である。
ひとまず建築主に報告する。

 役場は、確約書をださないと確認を下ろさないように、ビューローベリタスジャパン株式会社に圧力をかけ始めた。
今回の建物では、確認業務に役所の同意は不要である。
今までなら、許認可権を持つ行政が、圧倒的に強かった。
根拠不明の指導要綱に、強引に従わされた。
しかし今回はちょっと事情が違った。

 役場はお願いだと言いながら、お願いに従わないと確認を下ろさないという。
強権的で行政の慇懃な意思と、国民の自由と権利の狭間で、審査機関はさぞ困惑したことと思う。
しかし、民間審査機関は公平だった。
法的な根拠のない指導要綱には従っても良いし、従わなくても良いといってきた。
従うか否かが、確認業務とは無関係だというのである。

 役所は、たびたび電話をかけてきた。
担当の女性では押しが弱いと思ったのか、上司らしき課長なる人物が電話に出た。
田舎風でいかにも人の良い電話の口調だが、確約書をださないのは非国民だと言わんばかりであった。
全員が協力してくれる。
皆、確約書をだしているのに、なぜ出せないのだと、詰問調でお願いを要求してくる。

 2種類の提出を要求されたうち、上の確約書は提出に同意した。
というのは農地だった敷地に住宅を建築するには、農業委員会の許可が必要である。
この許可を地元の地主さんが取ったときに、建築主が永住するといったらしい。
その書類が役場にあり、それを根拠に確約書の提出を求められたのだ。
しかし、もう1通の確約書はとうとう出さなかった。

 確認の審査期間は、当初2週間くらいといっていたが、役場とのゴタゴタがあって3週間くらいかかった。
しかし、今回の審査機関は公正で中立的だった。
しかも民間人の意識だから、サービスも実に快適だった。  

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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