八ヶ岳山麓のガラス箱   No.06 

開口部
 ガラス・ウォールという言葉がある。
現代的なビルの壁などは、石や金属で覆われるのではなく、ガラスだけで作られていることも多い。
ウォールというのだから、壁には違いないが、透明だから壁と言って良いのだろうか。
高層ビルの床から天井まで、透明ガラスでできていると、その近くへ行くのが怖い気もする。

 透明なガラスは、壁なのか大きな窓なのか。
この問題は、「考える家」の第4章<柱と壁>を読んでいただくとして、透明のガラスを壁につかった場合、この壁は開閉できないくても良いか。
外国の建築雑誌を見ると、ガラスの家がたくさんあるが、それらの多くは開閉しないことが多い。
つまり、西洋人にとっては、壁にガラスを使っても、壁である以上開閉する必要はないようである。
しかし、我が国では違う。

 ガラスの箱を作って、そのガラスが開かなかったらクレームであろう。
もちろん商業建築にあっては、開閉できなくても許される。
匠研究室でも、かつて芦ノ湖畔に<アンの家>という土産物屋を設計したことがある。
このときには、周囲のガラスは開閉せず、完全空調で対処した。
しかし、住宅ではこうはいかない。
穏やかな日には、そよ風が入らなければならない。
だから、ガラスは開閉しなければならないのだ。
そこでどのように開閉させるか、それが思案のしどころになってくる。

 大地の上に寝ころびたい。とすればガラスであっても、開放感溢れるように全開できたほうが良い。
全開するには、開き戸になる。 

  右図のような開口部にすれば、確かに開放感は最高だろう。
すべて開け放てば、残るのは柱だけである。
風は通るし、見晴らしも良い。
こうしたいが、できない理由がある。
今回の立地は、八ヶ岳の麓である。
何度も冬の厳しさを書いてきた。
冬にもこの家を使おうとすれば、断熱を考えざるを得ない。

 このガラスは、すべて2重ガラスを予定している。
3メートル間口を、2枚立ての戸にすると、戸の重さは凄まじいものになる。
重いガラス戸を支える開閉機構も、必然的に重装備になる。
扉を支える柱を太くできれば、開き戸も可能だろうが、華奢に見せたい柱を太くはできない。

 2重ガラスだけでは、防寒には不足だろう。
そこで内部に障子を立て込んだわけだが、開き戸に障子はあわない。
だいたい障子は半分しか開かない。
 
 大型の開き戸が、風に煽られた時の危険性などを考え、結局、引き違いの戸を採用することになる。
引き違いの戸に障子を立て込んでくると、何だか和風の空間になる。
大地に寝そべるためには、床も板ではなく畳にしたので、いわゆる和風の香りが強いものばかりになってしまった。

 柱間の寸法は、サッシ製作寸法で決まってしまう。
サッシメーカーのカタログによれば、2枚立てのサッシでは、3メートル間口までが限界らしい。
高さは2.25メートルまで。
欄間を入れると開放感が削がれるので、床から鴨居まで一枚の戸を入れることにした。
これで戸の大きさは、幅1.45メートルで高さは2.25メートルである。

 通常の住宅に使われるサッシ寸法は、幅90センチに高さ1.8メートルだから、このサッシがいかに大きいか。
サッシは製作可能だとしても、内側に入れる障子も同じ大きさになる。
サッシはアルミなので狂わないが、障子は木製だから大きくすると狂いやすい。
障子の桟や組子を太くすることを考える。
いずれにせよ、普通ではないものを作るのは、いろいろと大変なことだ。 

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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