八ヶ岳山麓のガラス箱   No.04 

水回り棟
 大地の上に寝ころびたい。といって始まった計画だったが、建築主から出された希望は、もう一つあった。
それは浴室から、周囲の風景を眺めたいというものだった。
たしかに、この場所は八ヶ岳や甲斐駒など、周囲の風景は雄大である。
ゆったり風呂に浸かりながら、この景色を見たいという希望は、もっともなものだった。

 風呂にはいるには、誰でも裸になる。
とすれば、こちらから風景が見えなくてはいけないが、外から浴室の内部が見えてはいけない。
こちらからは見えて、裸でいるところを、外から見られてはいけない。
これはなかなか難しい要求である。
幸いなことに、敷地の南側は2メートル以上の擁壁があり、この近くに風呂をつくれば、外からは見えないことになる。
建築主も、敷地の南東の角に、浴室を設けることを希望した。
ここなら周囲の山が見渡せる。
 この計画では、風呂の位置が一番最初に決まった。
風呂も全面ガラスという希望もでたが、シャワーの設置などを考えて、洗い場は壁に囲まれて、風呂桶の部分だけガラスにする。
結局、左図のように3面ガラスで承諾してもらった。

 建築費などを考えると、水回りは極力コンパクトにしたい。
浴室こそ2×2メートルと、ややゆったりとったが、洗面脱衣室や厨房は最小限にした。
左図はNo.02の最終図面と少し違う。
つまり手洗器は不要で、ここは洗濯機を置く場所にしたいという。

 顔を洗うのは、厨房でやるというのだ。
たしかに1人か2人しか生活しない場所で、単独の洗面所を設けるのは過剰設計だろう。
設計者はたちまち承諾して、洗濯機置き場に変身させた。
といっても、洗面器をとり止めただけである。

 この家では手の込んだ料理はつくらないので、ほんのちょっと火を通すくらいの厨房で良いという。
大々的な料理は、外に釜戸でも設えてやればいい。
これもあっという間に納得した。
押入も不要という建築主だったが、これは無理矢理に押しつけてしまった。 
 水回りだけで、約12uということになった。
この水回りとガラスの箱が、渡り廊下でつながれて、平面計画は完成した。
今回は、建築主が過激で、設計者は常識にとらわれているようだ。
おまえは発想が固いといわれたら、設計者も歳をとって少しは良識を身につけたから、と応えることにしよう。
こんな話が進行していたのは、2004年の夏のことだった。

「タクミ ホームズ」も参照下さい
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