シングルズの住宅

住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第7章 結び

2.誰でもシングルズ

  シングルズだから、独り者だから、住むところが狭くても良いとは考えない。
社会の構成単位がシングルズであると前提することが、問題の出発点である。
つまり、1人の人間が充分な生活を営むためには、どのような住宅が不可欠なのかを検討することである。
おそらくそれは、日本人の平均的な所得水準の人びとが、生活している住宅がそれにあたるであろう。
平均的な日本人の生活を前提とし、それに適合する住宅を提供することこそ、住宅政策のあるべき姿ではないだろうか。
もし、それが100平方メートルであれば、100平方メートルの住宅を提供すべきである。

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 100平方メートルの中に生活するのは、何人であろうとも、たとえ1人でもかまわない。
家賃さえ負担できれば、何人で住んでもかまわない。
何人で住むかを決めるのは、そこに住む人びとのプライバシーに属することであろう。
1人だから50平方メートル以下の1DK、2人だから2DKといった、住む人間を規定する発想は止めるべきである。

 シングルズであっても、広い住宅が必要だと希望する人間には、広い住宅が与えられるべきである。
もちろん広い住宅は、それなりの家賃が必要なことは言うまでもない。
入居する人数ではなく、高価な家賃を負担できるか否かだけを、入居の条件にすべきである。
そして、伴侶の死によってシングルズになってしまった人を、住み慣れたところから、より狭い1DKなどへ移住させるべきではない。
本人が望むのであればともかく、住み慣れた場所から行政が規則だからといって、狭い1DKへ移住させることはするべきでない。

 自分の記憶を絶ちきらせることは、なんと残酷なことであろうか。
自分の意志で住み続けることができないのが公的な住宅だとしたら、誰でもシングルズになるかも知れない今、公的な住宅はもはや頼りにできないのである。

 広い住宅に住んでいた人が、伴侶の死により所得が減って、今までの家賃が払えなくなっても、狭い住宅に移るのではない。
家賃を支払うにたる所得を確保すれば良いのだから、広い家の1部屋を貸間させたらどうだろう。
その家賃収入によって、当人が払う家賃の補助とすればいいではないか。
今まで住んできた人間には住み続ける権利があるのだから、それは生き続ける。
もちろん、新しい入居者を選択する権利は、先住のシングルズにあることは言うまでもない。

 老シングルズが新たな入居希望者に面接をして、自分の家の一部を間貸しするに値する人間を選べば良いのである。
たとえば、そこに5年以上住んでいる60才以上のシングルズには、公的な住宅のなかで貸間業を営む権利が発生することになれば、先住シングルズは家賃の心配をしなくてもすむようになる。
そして、これがすこぷる大切なのだが、貸間情報を「TOKYO WALKERlや住宅雑誌などに掲載して、貸間市場を設定すれば、部屋を提供する方と求める方の接点ができる。
情報の市場を設定することは、物としての住宅建設にもまして重要なことである。

 人は誰でも施してもらうより、自分の口は自分で糊したいものである。
自分の存在が誰かの役にたっていると実感するとき、人は生きることができるのである。
それは職業をとおしてであることが多い。
貸間業とは、まごうことない職業である。
本人が住むということしか認めなかった公的な住宅のなかで、職業としての貸間が成立することは画期的なことであろう。

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 誰でもシングルズになることが予見される昨今、小さな住宅をたくさん作ることは短期的には正解のように見える。
しかし、25〜30平方メートル(第3期住宅建設5ヶケ年計画では、18平方メートルが単身者一人あたりの住宅面積とされている。)の住宅を作っても、それが使われなくなることは目に見えている。
シングルズがますます増殖して、今以上にふえることが予想されるが、今まで述べたようにシングルズの中身は一律ではない。
若いうちは狭い部屋でもいいだろうが、老シングルズが、そんな狭い部屋に住めるとは考えられない。

 平均的な日本人が住むに適切な住宅こそ、大量に提供されるべきであって、シングルズ向けといった住宅は提供されるべきではない。
ましてや、老人独居対策としての住宅など不用である。

 「
高齢化と核家族化が進み、2010年には世帯総数が5000万世帯を突破、平均世帯人員は1990年の2.99人から2.55人の減少することが18日、厚生省の人口間音研究所の将来推計で明らかになった。特に85才以上の高齢者が世帯主の高齢世帯が急増、3世帯に1世帯が高齢世帯になるとみている。このうち独り暮らしの老人は1990年の2.9倍、483万世帯になると予潮。今後、老人間穎がいっそう深刻になるとみられ、福祉対策が重要な課窟となりそうだ。<中略>主要先進国では、スウェーデン2・23人(1985年)、旧西独2.33人(1987年)、米国2.63人(1990年)、仏2.70人(1982年)となっており、欧米諸国に近づく見通しだ。<中略>独り暮らしの老人が大幅に増加する見通しだ」*12

 私たちは、すでに緊急という錦の御旗で、寝食分離や「DK」システムの住宅を大量に作った。
そして、それは入居されずに、空き室としてしまった前例がある。
「独居老人対策」は緊急課穎であるという声高な主張により、また同じ過ちを繰り返そうとしている。
住宅は何よりも社会的な資産である。
それゆえに10〜20年の短期的な要求に対応することよりも、もっともっと長い視野にたって考えるべきである。
そして、複数の人数をもって標準世帯となし、シングルズは例外的な家族形態であると考える設計思想から決別すべきである。



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