シングルズの住宅

住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第4章  ワンルーム・マンション

7.ワンルーム・マンションの功績

 ワンルーム・マンションが建築されるようになった背景は、シングルズの増殖にだけその原因があるのではないことは、今までの記述で理解されたことと思う。
シングルズの嗜好が変わったというより、むしろ、投資をしたりする人々の利益追及活動や相続対策として、ワンルーム・マンションは増えたのである。
極端な言い方をすれば、シングルズは今までどおり木賃アパートに住み続けてもよかったのである。
シングルズの嗜好の変化を鋭く見抜いた投資活動も看過できないが、ここで確認しなければならないのは、住宅問題は入居者の問題というより、すぐれて供給側の間穎である。

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 ワンルーム・マンションでも、一見<えたいの知れない>入居者の間騒だったように見えるが、やはり、供給側の問題だったのである。
単身者にはどのような住宅が提供されるべきかを考え、その基準にしたがうのは供給者である。
当然のことながら、ワンルーム・マンション建築の指導要綱にしたがうのは、まずワンルーム・マンションを建築する者である。
ワンルーム・マンションにかんしても、入居者には希望を述べる余地は与えられてない。
入居者個人は経済力には恵まれておらず、与えられた狭い選択肢のなかから選べるに過ぎない。
それは分譲でも、賃貸でも同じである。
それゆえに、供給体制をどう作るかは、公的な住宅政策のなかで位置づけるべきである。

 公的な住宅政策が、シングルズを視野にいれてない現在、民間で建築されるものをただ規制すれば良いという態度は、やはりシングルズにたいする差別政策と言われても仕方ないであろう。
 本研究の過程で、同潤会住宅(後述)について面接調査に、東京都建築技術管理室を訪れたとき技官のW氏は雑談の途中で、

ワンルームマンションを見たことある?あれはひどいわ
<木賃アパートよりいいではないですか>
いや、私は木賃アパートのほうがいいわ。木賃アパートのほうが、隣近所との付き合いも地域との付き合いもあったわ。ワンルーム・マンションにはそれが全然ないもの
といった。
おそらく50才くらいと想像される技官の話には、おもわず我が耳を疑った。

 木賃アパートの、音がつつぬけの壁、貧弱な扉、すきま風、プライバシーの欠如、こうしたものを嫌っているからこそ、経済的には苦しくなることをあえて覚悟して、シングルズは家皆の高いワンルームマンションへと、移り住むのである。
若きシングルズが、ワンルーム・マンションという最低の居住空間にでも飛びつかぎるをえなかったのは、それまでの住空間がそれ以上に劣悪だったからではないだろうか。
収入の少ないシングルズには、あんなに狭いワンルーム・マンションですら別天地であったのだ。
木賃アパートをシングルズは嫌っているのである。
にもかかわらず、都の住宅政策を立案する部署の近くにいる人が、こうした時代錯誤とも思われる感性をしていることには、不思議な感じがぬぐえなかった。

 今までは、ワンルームマンションの影の部分ばかりを中心に述べてきたが、ワンルームマンションには功績もあった。
1.3階建て以上が多く、耐火建築なので都市の不燃化に貢献した。
2.シングルズを社会的に認識させるきっかけとなった。
3.鍵1本ですむマンション生活がシングルズにも開かれた。
4.都市生活者=短期居住者という概念を確認した。
5.都市生活者は社会的な関係(ゴミ置き場、自転車など)をどこで取り結ぶのかが明確になった。
6.小規模な集合住宅を見直す契機となった。
7.所有と入居が分離できることがはっきりした。

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 今までの集合住宅は大規模であった。
武蔵野市が集合住宅を拒否しようとした例を上げるまでもなく、集合住宅ができることによって小・中学校の不足、交通網の整備、上水道の不足、下水道の不足、医療施設の不足などといった自治体には歓迎せぎる自体が発生した。
ところが、ワンルーム・マンションは、規模の小さな集合住宅である。
しかも、シングルズは上記のような公的な負担をふやすことはない。
それまで見捨てられていたシングルズが、ワンルーム・マンションによって都市にはめ込まれた。
それにによって、人口配分が平均化した。
筆者は、シングルズに味方している。
それゆえにワンルームマンション紛争にかんして、住民側に立ってない。

 社会的な資本蓄積という意味での住宅政策は、たとえ独居老人用としてでも小さな住戸を作るべきでないと考えている。
それについては、最後の章で述べるつもりである。

 お父さんとお母さんそれに子供2人という標準世帯のみを、住宅政策の対象とするのではなく、都市を構成する人びとは家族持ちもいるし、シングルズもいることを都市居住の基本認識にする必要がある。
第7章にて述べるが、かってのわが国には、シングルズも都市の一員であると考える設計思想があった。
ワンルーム・マンション紛争と、それにつづく建築の指導要綱策定の過程は、シングルズの増殖が不可避で、しかもシングルズを複数の家族たちと同様に、まごうことなき都市の構成員であると確認する通過儀礼であったと筆者は考えている。
ワンルーム・マンション建築の件数自体が減っているとはいえ、川崎市や八王子市など東京の郊外ではいまだにたくさん建築されている。
にもかかわらずもはや紛争がほとんどないことは、ワンルーム・マンションが危険人物の巣窟ではなく、普通のマンションとなんら変わらないことが認識され、一応の社会的な認知をえたからだと思う。

 都心からはるか藤れた郊外に、大規模な団地を建築することも、大切なことではある。
しかし、居住者に長距雑通勤をさせることを不可避とする団地建築だけではなく、都市のなかに住めるような智恵はまだまだある。
ワンルーム・マンションを忌避するだけではなく、シングルズの住処を積極的に街づくりに組む込むべきだろう。
それは都市の空洞化を防ぐためにも、必ず役に立つはずである。


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