シングルズの住宅

住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第4章  ワンルーム・マンション

2.ワンルーム・マンション建築紛争   その1

 ワンルーム・マンション建築の指導要綱が1984、5年に集中して策定されていることに驚くが、その中から立派なパンフレットを作成している世田谷、杉並、練馬、川崎を中心に検討してみよう。
ほかの自治体の指導要網もだいたい同じであるが、この4自治体のものは詳細度が高い。

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世田谷区は、その『基本計画』で、住宅の問題を区民生活の基礎としてとらえ、良好な住生活の確保と、安全で快適な住環境の保全を区政の中心課題としております。
 ところが、近年、区内に建設が進められているワンルーム・マンションは、これまでの住環境になじまない形で建設されたり、管理人をおかないことが多いなどに起因するさまざまな問題が原因となって、近隣住民に困惑や不安をもたらし紛争が多発しております。
<後略>」世田谷区長 大場啓二1990年改正 *5

杉並区は、基本構想の中で『みどりと豊かな福祉と文化のまち』の実現をめぎして、住みよいまちずくりを進めております。
この中にあって、最近建築が進められているワンルーム形式集合住宅(いわゆるワンルーム・マンション)は、これまでの地域の住環境になじまない形で建築が進められ、居住環境の変化や入居者の生活様式の相違により、近隣住民に不安をもたらし、紛争が多発する傾向にあります。
<後略>」杉並区建築指導課 1992年改正 *6

…その後の社会情勢の変化は予想をはるかに上回るワンルーム・マンション建築ブームといえる状況を招き、それにともなう紛争も多発しています。…」練馬区長 1992年改正 +7

ワンルーム形式集合住宅の建築に伴い、周辺の住環境に与える影響が原因となって建築紛争が増加する傾向があります。<後略>」川崎市建築局 1993年改正 *8

 どの要綱も、我が自治体は快適で安全な住環境を作りたいが、最近のワンルーム・マンション建築は紛争のもとになっているので、指導要綱を作ってワンルーム・マンションを地域になじませるのだと言っている。

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 ワンルーム・マンションにかぎらず、どんな建築でも何らかのかたちで、先住地域住民とのあいだで摩擦をおこす。
たとえ、それが建て替えであっても、建築行為は日常的なものではないから、近所の人には迷惑なものである。
たとえば、工事用の車がたくさん出入りしたり駐車する、建築労務者が出入りする、工事騒音をだすなど、建築工事をすれば大なり小なり近隣に迷惑をかける。
しかし、お隣さんの建て替えであれば、やがてわが家も建て替えるかもしれないから、我慢しようと言うことになって紛争まで発展しないのが普通である.
マンションは、木造二階建ての住宅にくらべると規模も大きく、新築後は新しい住民が入居するので、先住地域住民にとっては、馴染みがなかったのである。
そこで、ファミリーマンションの建築にたいしても、各地で紛争がおきた。

マンション建築によって、

…中高層建築物の建築にともなう影響としての日影問題を主として、電波障害や風害などの予想される実害を対象として物的要素…。」 *9  
をめぐって紛争がおきた。

 これにたいしては、1978年に建築基準法に日影規制が盛り込まれて、一応の決着を見た。
日影規制は、第1種住宅専用地域内では軒高7メートル以上、または3階以上の建築物、その他の用途地域では高さが10メートル以上の建築物を規制の対象とし、日影になる時間を規制することによって、建物の高さや形を制御した。
これによってマンションなどができて日影になっても、最低限の日照時間は確保することをめざした。
また、こうした建物は建築確認をだす前に事前公開が義務づけられた。
これによって、マンション紛争はおさまるかに見えた。
しかし、日影規制の範囲内で計画されたワンルーム・マンションは、事前公開や日影規制をうけることがなかったので、付近住民に事前に計画が知れることなく工事が着工できた。

 日影規制等によって、建築としての物的な要因はすでに規制された。
規制の範囲内でも、ワンルームマンション紛争はおきたのだが、それは杉並区の指導要綱でも言っているとおり、入居者の生活様式の相違にたいする不安が契機となっている。
世田谷区議会にだされた<ワンルームマンション建築に反対する>請願件数は、下図のとおりであるが、つぎにその内容を見てみよう。

調査により作成

「請願A 1.2.<省略>

3.紛争の発生と灸害の危険

1.狭い私道に面した敷地に、近隣住宅に近接して10メートルに及ぶ高層建物が建設され、その中に34戸の単身世帯が入居することは、前述の通行上の問題のほか、北側一帯の住宅に対する広範囲に及ぶ日影の問題、周囲に対する騒音、風害、電波障害や水圧の問題、さらには、34戸の窓のすべてと直面する東側隣接住宅に対するプライバシー侵害の問題等、近隣居住者の家庭との間に、深刻な紛争の生ずる可能性が極めて高い。

2.…リースマンションの特異性から、事故や災害の発生する危険度は一段と高いのに対し、…責任を追及し得る相手は、事実上無きに等しい。

3.…近年、ホテル、アパートなどに重大な火灸事故などが頻発し問題となっているが、リースマンションの場合、条件はこれら以上に危険なものがある。…単身の借家人で、在宅する家族もいない。

4.一方、建物の所有は、各戸別の多数の所有者に分散され、その所有形態は建物全体に対する持ち分による共有権ではなく、各戸ごとの区分所有であるため、各所有者は、災害対策の施設その他建物全体に関する青任はとり得ないのみならず、そのような責任について多数の所有者を交渉の相手とする事は不可能に近い。

5.…この種の建物の所有と居住の形態が、極めて不安定であるという事態は、建築の内容と相まって、先行きこれがスラム化、その他、健全ならぎる場所と化する危険性ををはらむものといえよう。」*10


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