シングルズの住宅

住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第4章  ワンルーム・マンション

2.ワンルーム・マンション建築紛争 その2

「請席B  前半<省略>
理由
1.近隣の住宅環境及び自然環境の低下
2.多数のワンルームマンションは、住宅地としての住民の平和、静穏を含む環境を阻害する
3.不特定多数の居住者に対する適正な秩序管理が十分行われ難い
4.建物からののぞき見によるプライバシーの侵害
5.地震、火災等の災害時に混乱を招く
6.日照、電波障害及び風害を来す
7.軟弱な地盤のため、近隣家屋へのゆがみなどの影響を与える
8.空き地不足による地下水の供給量の減退と北側に暗渠があるため溢水の危険
9.工事中における生活権の侵害
10.工事中の騒音による老人及び病人への悪影響」*11

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「請願C  前半<省略>
ワンルーム・マンションでは…不特定多数の知れない人物が住みつき……。一般にこれらの人物の集合体では、例えば昼夜の区別なく、ステレオのボリュームをあげたりバイク族がたむろしたり売春行為があったりその他ごく一般人の行動時間帯と異にするなど無秩序で身勝手な日常生活を営むものと思われます。」*12

 世田谷区では、ワンルーム・マンションに関する請願が、1983年にはじめて登場してから1987年まで 51本の請願がでているが、最初の 3本ではとんど主旨は出尽くしている。
以降の請願はほとんど内容は同じなので省略するが、これら請願の内容はワンルーム・マンションに固有の問題と、マンションー般の問題が混在している。

 請廣Aの1.4.、請願Bの 4.5.6.7.8.9.10.はワンルーム・マンションに固有のことではない。
どんなマンションでも多かれ少なかれ発生する。
請願Aの 2.3.4.は、はたしてこう言えるか疑問である。
まず、請願Aの 2.3.はリース・マンションは危険性が高いと決めているが、むしろ子供や老人が住んでいないので、危険性は少ないのではないかとすら思える。
請願Bの 1.2.は、なぜこう言えるのかよくわからないが、請願Bの3.は、50戸以下のファミリーマンションでも、管理人をおく余裕はないから、同じことが言える。

 ワンルームマンションが忌避されたlまんとうの理由は、請願Aの 5.と請願 Cであろう。
それゆえに分譲ワンルーム・マンションは、入居者が留守がちで不安定、所有者の正体不明、また近隣住民との接触がないなどの理由によって、正体不明のエイリアンのように見られ、それが得体の知れない=拒否となって現出したのであろう。

…ワンルームマンション紛争は、完成後に居住する人的要素によるものが主である。…」*13  
つまり、紛争の根底には、ワンルーム・マンションヘの入居者を、異分子=危険分子と見なす差別意識があったのである。
そう考えると、請願の言葉も納得できるものが多い。
たとえば、請願Bの4.のように、ワンルームマンションの入居者は、すべて<のぞき>が趣味であるかのような反対理由が、なぜ言われるのか得心できるのである。

 建築する側が、計画が合法的であるので建築を強行したせいで、紛争が大きくなったことも否めないが、それだけではなく、建築に反対する住民側にも、おおいに問題はあったのである。

 「
建設反対の度合いが金銭補償額のバロメーターとの考え方で、反対理由をプライバシーや輻射熱・通風・眺望・色彩・天空率・圧迫感及び環境破壊などの難問を出し、…駆け引きでの対抗と作戦が紛争を一層複雑化している」*14

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 ワンルームマンションに限らず、日影規制で日影になる時間がはっきりと判るようになった。
そのため、閑静な住宅地の先住民たちは、逆にそれを金銭補償に換算しようとしたのである。
今日では、金銭補償は当たり前のことになっており、規制の範囲におさまっても、幾ばくかのお金が支払われることが常態になった。

 世田谷区で 51本出たワンルーム・マンションにかんする請願の中で、例外が 2本ある。
1本は、ワンルームマンションを建築・販売・管理している杉山商事から、規制反対の主旨で提出された。
もう1本は、「都市の若者の住まいを考える会代表」からの陳情である。
会の実態は不明であるが、陳情の論旨は明確である。

1.私たちはえたいの知れない者ではありません。…大部分が地方から出てきた学生であり、まじめな勤労青年です。
2.…ワンルームマンションは居住性が抜群で立地条件もよく、家賃の手ごろさと相まって、私たちの城といえます。…床面積は16平方メートル以上と発表されましたが、…それによって家賃が高くなったのでは、私たち若者の住まいとしては価値のないものになってしまうでしょう。
3.反対運動の真意を疑います。私たちが現在入居しているワンルームマンションにおいては、近隣の方たちとのトラブルは皆無であります。…いろいろな弊害を予想して…反対することは、私たちには正当な主張とは思われません。
4.単身者用住宅の整備は国の費任です。大都会における若者を主体とする単身者用住宅については、これまでも現在も国の住宅政策の対象外にされてきました。大都会に若者が集まり、その若者たちの活力を利用して都市が、そして国家が繁栄してきはことは世界が証明するところです。


 その若者たちのために、国にかわって提供する民間の単身者用住宅に対しては、補助、育成こそ必要であり、規制などすべきではないと思いますと、述べるこの会の正体は不明である。
ひょっとすると、ワンルーム・マンション業界の回し者かも知れない。
しかし、ここには住宅政策上考えてみるべき主張がある。


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