シングルズの住宅

住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第2章 シングルズの諸特性

2.シングルズの動向

 一般に、近代化の進行と共に家族の規模は小さくなると信じられていた。
わが国でも前述のように、2.88人まで小さくなってきた。
しかし、核家族化という流れでみると、1975年には63.9%だった核家族世帯は、1985年には逆に62.5%へと、10年間で1.4%ほど低下してしまった。
ところが、単独世帯をそれに加えてみると、1985年には80%となっているのである。*8
…1960年からの15年間は『核家族世帯化の時代』、1975年以降は『単独世帯化の時代』ということができる」*9

昭和60年国勢調査モノグラフシリーズNo.9(P31)より

 ところで、単独世帯といっても、その住環境はさまぎまである。
前述のように、一般世帯のなかには3種類の単身者が存在する。

 山本千鶴子氏によると、3種類の単身者を次のように分けている。

.単独世帯員−1戸を構えて住んでいる単身者
2.非親族世帯の世帯員−友人同士のように親族関係にない単身同居者
3.親族世帯の非親族世帯員−住み込みの使用人や同居人のように、よその親族世帯に住んでいる単身者
4.施設などの世帯員−寮や寄宿舎、矯正施設に住む単身者


氏は、つづけて次のように分析している。

 「
1920〜1985年間に『単独世帯員』は64万から640万へと10倍の増加を示しているのに対して、『準世帯の世帯員』は160万から320万へと2倍の増加を示している。他方、『非親族世帯の世帯員』は19万から15万へと4万の減少を示しているが、その大きさはあまり変化がなく、『親族世帯の非親族世帯員』は330万から17万へと大幅な減少を示している」*10

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 1960年ころまでは、住み込みの店員や年期奉公の職人が、私たちの身辺にもたくさんいた。
しかし、1980年近くなると、住み込む方も住み込まれる方も、たがいに非親族者の同居を好ましく思わなくなってきた事情が数字になって表れていることは、まったく実感的に納得できる。
それゆえ単身者=シングルズの増加は、ひとえに単独世帯員の増加によるもの、と断定せぎるを得ないのである。

…『1人の普通世帯』の急増は…間借り・下宿・会社の独身寮などに居住する単身者がアパート・マンションなどに住むようになった…」*11
単独世帯貞は1975年の425万人から1985年には639万人と10年間に218万人も増加した」*12
と、国勢調査モノグラフも述べている。

 つまり、今まで独身であっても、親族世帯に住み込んでいたり、施設などに寄宿していた人々が、1戸を構えて住むようになってきた。
換言すれば、今までは独身であることが、独居を意味しなかったのであるが、住宅事情の改善と相まって、独身→独居できる、という図式が成立するようになってきたのである。

年齢別単身生活者
昭和60年国勢調査モノグラフシリーズ  No.9(P72)より

 独身ということから、単身者は若年層が多いことが考えられるが、統計上もそのとおりである。
単独世帯員の年齢構成は、男女ともに20〜25才の若年層が突出している。
女性にあっては、中高年にもう低い山があるが、若年層の突出が顕著である。そのため今まで単身者は人生の通過期であり、やがて結婚するのだからという理由で、住宅供給の対象とはならなかったのである。

 しかし、「
…この10年間の単身者の変化を見ると、単身者の高齢化現象が進行している。……最近の晩婚化によって30才代の単身者に55万人の増加と、…65才以上の単身者に、…81万人の増加がみられるのである。…単身生活者の急増は、…言い換えると晩婚化と人口高齢化に深く関わっていることが理解される」*13

 おそらくこの傾向は続くであろうから、もはや、シングルズは人生の通過時期だとはいえない。
何才になってもシングルズのままで生活を続ける人びとの増加、これは押し止めることのできない時代の流れである。
そうした時代認識を共有する限り、シングルの住まいが無視されてよいはずがないし、仮の住まいでよいはずがない。
人はシングルズで人生を過ごすことがあり、その時期にも充分な住宅環境に住むことは、当たり前のことである。


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