シングルズの住宅

住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第2章 シングルズの諸特性

3.シングルズの地域性

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 単身者の研究に先鞭をつけたのは戸田貞三氏だとは前述した。
その研究を森岡清美氏が、5つの命題にまとめている。

 
 1.若年層、とくに15〜29才層に家族外生活者の比が高い。
  2.30才以後の者に家庭内生活者の比が高い。
  3.家庭外生活者の比は全体として女子よりも男子の方が高い。
  4.ただし、高年女子の家庭外生活者の比は高年男子のそれをしのぐ。
  5.都市化が進むにつれて家族外生活者の比率は高まる。
 *14
  (ここでは家族外生活者を単身生活者と読みかえる。)

いずれも妥当な命題のように見える。
しかし、森岡氏は1〜4までの命題については妥当としながら、5にかんしては疑問を投げて、次のようにいう。

戸田の第5命題が示すところでは、都市化が進んだ第2次世界大戦後の現代において、家族外生活者の比は高まるはずだったのに、1920年の12.0%を基準とすれば、むしろ低減しているといわねばならない。……1920年の6大都市における家族外生活者の比は確かに全国平均に比べて高かったが、だからといって、都市化につれてこの比率が高まるとはいえない。……戸田の第5命題は成立しないのである」 *15

森岡清美「現代家族変動詮」(Pl19)より

 筆者は、戸田氏と森岡氏の論に決着をつけるつもりはない。
しかし、森岡氏が提示した上の表から@ACが減り、Bが増えていることを指璃したい.。
これは今まで本研究が述べてきたことと一致するからである.

 むしろ筆者は、単身生活者の比率が都市部で高いことから、シングルズの発生は都市に特有な現象だ、と誤解されることを恐れるのである。
そこで1990年当時、1世帯あたりの世帯構成員が最も多い山形(3.65人)富山(3.53人)滋賀(3.45人)について、1985〜90年にかけての、総世帯数と単身世帯数の変化を調べてみた。

国勢荊妻より作成

 これによると総世帯数は、各々130,138,185%増えているのにたいして、単身世帯数は各々541,550,538%も増えているのである。
旧来の家族形態が、色濃く残っている3つの県において、単身世帯がこれはど増えていることは驚きであろう。

 総世帯にたいする単身世帯の割合をとってみると、各々15,14,17%であって、もちろん全国平均には及んでいない。
1990年の東京は、総世帯の36%が単身世帯であるが、1965年当時にすでに15%が単身世帯であり、この25年間で388%の伸びにとどまっている。
その意味では地方のはうが、シングルズの増殖率は高いのである。
たしかに、時代を静止的に切ってみれば、シングルズは明らかに都市に多く生息している。
しかし、時代を追ってとらえてみると、シングルズの発生は都市でだけの現象ではない。
わが国全体でシングルズが増穂していることは、ここで確認しておきたい。

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 山本千鶴子氏の論文によると、単身生活者の総人口に占める割合は、
…1960年においては大都市圏や北海道でその割合が高く、1975年およぴ85年では大都市圏や北海道に加えて、西南日本でその割合が高くなっている」 *16 
というが、1960年以前は、単独世帯をなす人々=シングルズはむしろ少数派である。
1975〜85年以降になると、単独世帯をなす人々が広範に登場してくるのであるが、これが、都市にかぎらず西南日本でも多いということは、シングルズは西南日本にもたくさん生息しているのである。

 「
最近みられる単独世帯化は、『…住宅設備の改善により準世帯にあった人々が単独世帯をなした、という推移をうかがうことができる』といわれている。それは地域的にみた場合でも、ほとんどの地域で確認できた」*17

 わが国では、都市と地方が対立構造をもって発達してきた歴史はほとんどなく、*18 都市での動きは少しの時差をもって地方へと伝播する。
だから、シングルズの発生は都市に固有な現象ではなく、全国的な現象であるのは驚くにはあたらない。
しかし、資料の制限により、本研究は都市部を主な対象としていく。


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