シングルズの住宅

住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第2章 シングルズの諸特性

1.シングルズの定義 

 どんな人間も、必ず父なる男と母なる女の間に生まれる。
しかも、人間は独力で生活可能な年齢になるには、誕生後少なくとも数年を要する。
そのあいだの養育には、今まで多くの場合、家族がそれを担った。
家族の定義はすこぶる難しく、マードックやレヴイ=ストロースのものが有名であるが、なかなか定説をもつにいたってはない。
幸いなことに本研究は、家族の定義は終わったところから出発できる。
つまり本研究は、生をうけた人間が何年かの子供期を過ごし、成人し独力で生活が出来るようになって以降を対象としているからである。
そこで、本研究では、単身生活者が家族を形成しているか否かは、不問のまま話を進めることが可能となる。

 本研究では、とにかく 1人で生活を営んでいる人間を単身生活者=シングルズと呼ぶことにするが、その中身はいささか複雑である。
単身生活者は、現在 1人で生活しているといっても、きわめて流動的である。
シングルズは必ずしも、一生を1人で生活しつづけるわけではない。
今日はシングルであるかも知れないが、明日は同棲や結婚して対をなすかもしれない。
そのため単身生活者=シングルズとは、属性にたいして名づけられるものではなく、状態を呼ぶものであることは、簡単に了解されるであろう。
念のために申しそえるが、本研究でいうシングルズとは、結婚していない者つまり非婚=バチュラーをいうのではない。


 森岡清美氏にしたがえば、単身生活者に最初に分析の光をあてたのは戸田貞三氏であるという。
また、山本千鶴子氏にしたがうと、
戸田博士は世帯に住んでいる人々を家族生活者と非家族生活者にわけ、非家族生活者を同宿人…など親族関係のない人々であると定義している。これから明らかなように、1人の普通世帯は家族生活者のなかに入れられている…」*1
が、森岡清美氏は
…親族と同居せず、したがって日常的な生活共同をもたない人々を、すべて家族外生活者と規定する」*2 
と戸田氏とはいささか異なった定義をしている。

 家族や家庭や世帯という言葉が登場した背景は、家の解体であった。
家庭はジャーナリストにより、家族は社会学者により、世帯は行政官により、採用され洗練された、と森岡清美氏は述べている。
しかし、家族と家庭という語は、今日ではいくらか不明瞭な部分、換言すれば定義し難い部分を内包している。
それにたいして、世帯は語の定義が正確にでき、国勢調査に使われていることもあって、比較的明瞭な像を結ぶ。
1980年以降の国勢調査では、次の2つの世帯が使われている。

   A.一般世帯−1.住居と生計を共にしている人びとの集まりまたは1戸を構えて住んでいる単身者
          2.上記の世帯と住居を共にし、別に生計を維持している間借り 人の単身者または下宿屋などに下宿している単身者
          3.会社・団体・商店・官公庁などの寄宿舎、独身寮などに居住 している単身者

   B.施設などの世帯−1.寮・寄宿舎の学生・生徒
               2.病院・診療所の入院者
              3.社会施設の入所者
              4.自衛隊営舎内居住者
              5.矯正施設の入所者
              6.その他、船舶乗組員など

 (ただし、1975年以前の国勢調査では、「普通世帯・準世帯」の区分を用いていたが、1980年から、上記の区分を使い始めた。普通世帯とは一般世帯の1.に相当し、準世帯とは一般世帯の2.3.を含んで、施設などの世帯を称していた。)
また、世帯の家族類型としては、

   A.親族世帯−世帯主と親族関係にある世帯員のいる世帯
   B.非親族世帯−2人以上の世帯員からなる世帯のうち、世帯主と親族関係にあるものがいない世帯
   C.単独世帯−世帯人員が1人の世帯   *4

 そこで、筆者が本研究につかう<単身生活者=シングルズ>とは、Aの一般世帯に住む単身者とする。
けだし、Bの施設などの世帯は、まさに通過的な存在で、単身である期間は短期間にすぎないから。 *5

 国勢調査のうえの概念としては、単身者=シングルズは充分に理解できる。
しかし具体的な人間としてのシングルズとは、現実的にはどんな形で生活をしているのであろうか。
もちろんそれは私たちの回りに普通に生活しているのである。
シングルズそれは、

1.<結婚しない女性>に指をおらねばならない。
 こうした女性は、最近の女性の台頭によって脚光を浴びるようになったが、実は1960年代から存在していた。
それは戦争未亡人もしくは、戦争で婚期を逢した女性たちである。
「独身婦人連盟」は、そうした人たちが構成員となっている。
当時、時代の主流を男性たちが握っていたので、女性を専業主婦とのみ考えて、男性と同様な意味の社会的な労働力とは見なさなかった。

そのため、男性にとっての女性は、子を生むための存在、そしてセックス付きの家政婦的な存在でしかなかった。
婚期を逢した女性は、労働力の再生産=子を生む生き物としては、関心をそそがれる対象ではなかった。
敗戦後は男が少なかったので、未婚は女性の問題ではあっても、男性の問題とはなり得なかった。
こうした理由によって、未塘の女性は社会的な関心の埒外におかれていたのである。*6 
それが、最近の女性の台頭によって、未婿の女性にも男性と同様の人権が認められるようになってきたのである。

2.<結婚しない男性である。
 「国勢調査から見ると、35才から49才の女性のシングル率は、1970年に5.03%、90年には5.97%で、微増にとどまる。
対して同年代の男性シングルは、70年に3.13%だったものが、90年には何と12.47%、4倍増である。」*7 
元気な女性陣を見ていると、独身は女性の方が多いように感じるが、統計上はむしろ男性の方が、独身率は高いのである。
結婚しないもしくはできない男性たちは、本研究で扱うところのまごうことなきシングルズである。

3.<離婚した人たち>である。
 子どもの数が少なくなった現在、離塘したどちらかが子どもを引き取れば、片方は単身者となるのは、当然のことである。
女性が子どもを引き取る率が増えたとはいっても、まだまだ経済力に劣る女性の錐婚後には、厳しいものがある。

4.<死別によって伴侶を失った人たち>である。
 人生の晩年において伴侶をなくし、自らも老人となった人びとは、その後子どもと同居しなければ、単身者として生活せぎるを得ない。

 以上の範囲に含まれる人々を、本研究は対象とする。
これ以外にも、単身赴任者などが単身生活者として考えられるが、彼らは本研究で言うシングルズではない。
本研究でいう単身生活者は、単身生活者であることに何らかの意味や価値をおかざるを得ない人々をさす。
単身赴任者は、単身でいる状態を正当化する根拠を自分の外にもっており、生活が一時的に不便であっても、シングルズであることを自らに納得させる必要性はない。
企業の意志によって何年か後には、自動的に複数世帯に戻る人々は、本研究の対象外である。


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