シングルズの住宅
住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第1章 研究の目的・視点・方法

2.既往の研究

 家族構成の研究は、戸田貞三氏(1887−1955)によって始められたといってもよい。

 「
…家族の研究は制度としての研究と同時に団体としての研究が試みられねばならぬと、その著『家族の研究』1926の緒言で戸田が言明したとき、わが国における家族社会学の衰生が告げられたことは、家族研究者の間では周知のことである」 *5

その後、森岡清美氏の「家族周期論」1973、「現代家族変動論」1993、などによって、家族研究は主として、家族社会学の方面からなされてきた。
ここでは家族の構成にかんする考察はあっても、それが建築なかんずく住宅のありようを決めるという問題意識は希薄であった。

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 家族にかんする建築分野からの研究では、家族と住宅の使われかたを調査した西山卯三氏の労作(1947)や、間取りと寝室の関係を調べた鈴木成文氏の仕事(1968)がある。
けれどもこうした研究は、家族は複数で成り立っていることを、無前提的に前提しており、時代的な制約下ではしかたないとはいえ、単身者を分析の対象には入れてない。

 1984年になると、阜身者の動向にも目が向けられはじめ、山本千鶴子氏によって「単身生活者の動向」*6 がまとめられている。
氏は、引き続き「単身赴任者の統計的観察」*7 「都道府県別にみた単身生活者の動向」*8 といった形で研究成果を発表している。
だが、いずれも家族社会学的なアプローチであって、建築の世界にただちに適用できるものではない。

 海外に目を転ずると、単身生活者に対する研究は、はやくも1978年にへルマン・シエライバー氏によって、「シングルズ」一脱結婚時代の生き方−として、上梓されている。
それとあい前後して、アメリカでも単身生活者が増えはじめ、それはシングルズという概念として確立され、社会的な認知がなされてきた。
そこでは単身者であっても、1人前の社会人であることには変わりなく、社会のなかで複数からなる家族と同様に、正当に扱われるべきだという認識がみてとれる。
その結果、シングルズむけの商品が開発されたり、シングルズむけのクラブなどが登場し、シングルズが市民権を獲得し始めたのである。

 スウェーデンでは、1960年ころを墳にして、家族が複数の構成員からなるという認識は、消失していったようである。
今日では、単身者であっても公的な住宅に入居するうえで、複数構成員からなる家族と、なんら異なった扱いはうけていない。
また、婚姻外で子供が生まれても、婚内児とまったく同じに取り扱われている。 *9

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 わが国でも1990年になると住宅金融公庫によって、「単身者の住宅意識調査」が実施されている。
そして、1993年1月には、博報堂生活総合研究所によって、首都圏の26才から39才の1200人を対象にして「シングル度調査」が実施されている。
また、1993年6月に刊行された「現代社会とハウジング」には鈴木悸志氏による「単身世帯の住宅需要と課題」*10 が発表され、建築の世界からも、単身者に対する関心は徐々に高まってきている。
しかし、住宅政策のなかには、いまだ単身者を家族とみなす認識は成立しておらず、単身者にたいする研究はきわめて少ないのが現状である。
そして、住宅・都市整備公団および各自治体の住宅供給公社も、少数の例外を除いて、単身者には住宅を提供していない。

 最近のわが国では、単身者一般という立論ではなく、独居老人問題というきわめて特殊な形での取り上げかたは、たくさん見ることができる。
独居老人問題にかんする研究はいちいち取り上げないが、それらは体力や生活力の衰えた老人を、いわば社会的な弱者とみなし、弱者救済的な観点での研究が多い。
その流れにそって、東京都ではシルバーピアなる政策を実施している。
しかし、本研究は、老人という特殊なくくり方をしてのものではない。
一人で生活するフツウの社会人の住宅のありかたを研究対象とする。
そうした観点から既往研究を見直してみると、寡聞にして該当する研究は、ほとんどみることができない。


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