シングルズの住宅
住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第1章 研究の目的・視点・方法

1.研究の目的

 太平洋戦争以前そしてとりわけ敗戦直後、わが国は極度の住宅不足をきたした。
そのため1軒の家に、何世帯もの家族が住むという状態が、どこにでも見られた。
また子供の数が多かったことも手伝って、世帯構成員数が多かった。
国勢調査によると、1950年には5人、6人、7人世帯が、それぞれ10%を越えていた。
1980年以降は、国勢調査の統計から消えてしまった10人以上の家族すら4.1%もあったのである。

1950年には10人以上の世帯が4.1%もあった
各国とも戦後になって家族は急速に小さくなった
1985年には1人世帯が4人世帯を追い抜いた

 しかし、1950年以前に時代をさかのぼればさかのぼるほど、1軒の構成人員が増えていくのかというと、必ずしもそうではない。
 「…普通世帯1世帯当たりの平均世帯人員を見ると、1920年から1955年まで、約5人で安定していた。」*1 のである。
しかも、わが国の敗戦後の一時期を例外として除くと、人類のどんな社会にあっても1世帯あたりの構成人数は、そんなに大きな違いはないようである。

 「…コール(Coale,Å.J.)はレヴイ(Levy,M.J.,Jr.,1918−)が挙げた3つの種類の社会のうち、近代医学を欠く社会について、理念形態毎の平均家族規模を試算し、3.3人から5.7人までの、予想よりはるかに小さい差にとどまることを明らかにした(1965)。・・・」*2 

 大家族制が支配的だった時代には、何人もの家族が 1軒の屋根の下で、一緒に暮らしていたと考えやすいが、必ずしもそうではないのである。
正確な統計資料はないが、江戸時代であっても、家族構成の平均的な数は、二桁にはいたらず、6人前後であったと思われる。

 わが国において正確な統計資料が得られる時代になっても、1920〜55年まで、6人世帯がもっとも多く、1920年の平均同居者数は、普通世帯にあっては6.03人であった。
しかし、もっとも新しい統計資料=1990年の国勢調査によると、我国の家族=普通世帯の構成人数は、2.99人である。
また、1993年3月31日現在の自治省のまとめによると、1世帯あたりの平均人数は2.88人である。*3 
つまり、戦後の50年間における産業化=近代化と平行して、家族は6人近い構成から、3人以下まで縮小してきたのである。
そして、戦後の社会に突入するまでは、5人前後で安定していた家族構成が、それ以降急激に減少してきたのである。

 近代化と平行して、家族構成員が減ったことは、日本に限ったことではない。
なべて先進工業国では、産業の近代化と共に、家族構成が急激に減ったのである。
もちろん、このかげには避妊の普及と、妊娠中絶の合法化があったことは言うまでもない。
家族構成員の減少した理由は、本研究の対象とするところではないので、これ以上は論じない。

 上記のような家族構成員の減少は、すでに周知の事柄であろう。
本研究が取り上げるのは、その影に隠れて忘れられているもう一つの現象、つまり1人世帯の急増である。

 1人世帯と聞くと、学生の下宿住まいなどを除けば、圧倒的に少ないと思うかも知れない。
しかし、1980年を頂点として、3人以上の世帯が減るなかで、1955年以降1人世帯が急激に増えていたのである。

 1950年には10.2%だった2人世帯は、1990年には20.6%へと40年間で倍増した。
しかし、1人世帯はおなじ期間に5.4%から23.1%へと、4倍以上と飛躍的に増加したのである。
(国勢調査のとり方が1980年に変わったので、数字には多少の違いがあるかも知れないが、1人世帯の増加はまぎれもない事実である)
そしてとうとう、1985年の国勢調査では、1人世帯が最も多くなったのである。

 住宅における今までの建築計画は、お父さんとお母さんそれに2人の子供という世帯を標準として進められてきた。
最近の家族構成員の統計から、今後すべての家族が、1人世帯に収赦するというわけではないし、家族は1人世帯になるべきだというのでもない。
けれども、1人世帯が23.1%ともっとも多くなった今日、従前のような標準世帯といった考え方で、建築計画に取り組んでよいのであろうか。

 本研究は、家族の形態が標準化を許さなくなってきたという認識のもとに、結婚するまでの一時的な家族形態でしかないという理由で、今まで省みられることのなかった1人世帯に光をあてることによって、より豊かな建築計画が確立できることを主張したいのである。

 単身でいる状態は人生の通過形態でしかなく、人間は必ず結婚するものだという片寄った常識によって、今まで1人世帯は、異常で例外的な家族形態であると考えられてきた。
人は必ず複数の人が同居していくのだという常識がまかり通っていた。
そのため、単身者=シングルズは建築計画や公的な住宅政策からは無視されていた。

 結婚することが、必ずしも人間の普遍的な生活形態ではな。
ましてや、1対の男と女が同居すること以外に、人間は生活できないわけではない。
結婚して男と女が対をなすことが、正常な家族形態であるという認識も、すこぶる時代制約下にあることが、文化人類学や家族社会学の研究によって明らかになりつつある。
1人世帯も、社会的に許容された家族形態であると主張することによって、人間の生活は、ますます豊潤になると結論したいのである。


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