シングルズの住宅

住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第3章 シングルズの住宅事情

3.シングルズの民間借家

 前述したように公的な住宅に、門戸を閉ぎされたシングルズは、住処を探して街にでざるを得なかった。
そこで接するのは、貸家(貸間)の経営者ではない。
多くの経営者は、代理・仲介業に委託して、入居者を募集している。
建設省「昭和63年度貸家供給実態調査−東京の賃貸住宅」によると、84.2%が代理・仲介業者によっている。

 現在では、民間借家の入居に際して、さまぎまな書類が要求される。次の一つでも欠ければ、入居はできない。

 1.住民票  2.戸籍謄本  3.所得証明  4.印鑑証明  5.連帯保証人  6.連帯保証人の印鑑証明

 しかも多くの場合、連帯保証人は、同一市内に住む血縁の男性が要求される。
それがかなわないときは、連帯保証人を2人たてることさえ求められるのである。 *14  
兄弟姉妹の少ない昨今、シングルズが同一市内に住む血縁の男性の保証人を持っていることはまれである。
はやここで、入居できるシングルズは、ふるい落とされてしまう。

 そして、入居にたいしても、さまざまな制約がつく。

東京都「高齢者の住か、に関する調査」(P162)より

 <子供のある世帯不可>というのは、もちろん修学前の子供であって、彼ら(彼女ら)は部屋を汚すことが予想できるからである。
部屋を汚されることは、部屋という商品に傷つけられることであって、次の入居者を募るうえで障害になるからである。

 このグラフをみていると、なるべく若い人を望む傾向が表れている。
それは、若い人だと回転が早く、貸家業の採算がすこぶるよいことによる。
1人の人に長く住まわれることは、安定経営という意味では歓迎されるかも知れないが、家賃の値上げは小幅にせざるを得ず、採算は悪くなる。
また長期の居住によって、退出時の傷みはひどく、次の入居者に対応するために費用がかかるなどの理由によって、若い人の短期間の居住を、どんな経営者も望むのである。

 ところで、若い人の入居というが、若くないつまり老人として拒否される年齢は何才であろうか。
筆者の代理・仲介業者への面接調査によると、それは 50才がさかいである。
しかも、50才にならなくても、それに近くなると、保証人として子供もしくは血縁者が求められている。
老人の規定である 60才もしくは 65才になるはるか以前に、民間賃貸住宅では老人抜いをしている。
しかも、シングルズに子供がいることは少ないし、血縁者も少ないので、民間借家に入居するにも、シングルズはすこぶる不利な条件を備えているのである。


東京都「高齢者の住か、に関する調査」(P166)より


図3−10
賃貸上の障害点−経営者  (N=78)

 「
老人は計画的な生活をするので、家賃の滞納はないが、老人というイメージだけで入居が拒否され、女の独身より男の独身のほうが拒否感が強い」*15 
のである。
今までシングルズは若者特有の現象であり、老人とシングルズはそれぞれがまったく別の概念のように感じていたかも知れない。
しかし、老人もシングルズも、あるところでは重なっているのである。
ましてや、男性のはうが経済力があって、歓迎される入居者であったと思いきや、<女性のみ可>という解答はあっても、<男性のみ可>という解答はないのである。 

 こうした状況を敏感に察知したシングルズでいるかもしれない女性たちは、自分の住まいを自らの手で確保し始めた。
 それが次に述べる、女性が家を買うときである。


4.女性が家を買うとき

 女性が不動産に関心を持ち始めたのは、そんなに古くからではない。
1972年に、田伏中子著ひとり暮らしのすすめ「独居学入門」という本が刊行されている。
その本の中で、住まいについて
…独居とはいえ、いや独居のために、その住まいの条件が、日常生活に与える影響は少なくないのではないだろうか。…他への消費を少々きりつめても、住まいの充実を考えたい」*17
と、いっているが、間借り、アパート住まいが前提になっており、自分で家を買うという計画は、一瞥もされず、まったく検討されてない。

 1986年、「女が家を買うとき」が松原惇子氏によって出版された。
松原氏が自分でマンションを買う体験談を書いたもので、37才の独身の女性が1970万円のマンションを買っている。
このころから、女性が家を買う動きが始まったようである。

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 また、1990年になると、谷村志穂氏によって「結婚しないかも知れない症候群」が上梓された。
その中で、「
20才台で、30才台で、独身女が家を購入した、というはなしは私の廻りでも少なからず聞くようになった」*18
といっている。
 女性やフリーランスの職業人にも、銀行が融資対象を広げたことが、女性の住宅購入に弾みをつけたと、同書のなかでいっている。
しかし同書は、女性が住宅を購入する理由を不動産屋に取材して、そこの社員から次の返事をもらっている。

…40台の後半を過ぎてからのお独り暮らしの方にはオーナー様がお貸しになりたがらないんですよ。山手線沿線では特にこの状況がひどく、そうですね、若い方とくらべるなら、賃貸の間口は20%ほどしかないでしょうね.つまり部屋をさがすのに5倍は大変だということです。ですから、結婚をなさるご予定のない方には、やはり購入をお勧めしますね」*19

 これは、筆者の面接調査と同じである。
ここでも、シングルズにたいする民間借家の状況が厳しいことが印されている。
シングルズが高齢化してくるにしたがって、借家から持ち家へ移行せぎるを得ない状況があるのである.

 1993年7月号で、日経WOMANは、「私、家買っちゃいました」という特集を組んでいる。
最近住宅を購入した48人の働く女性(シングルズとは限らない)の経験談が掲載されている。
総額2,000万円から5,900万円まで、一部を親に助けられている例もあるが、何とか家を自分のものにしている。
この46人は、日経WOMAN篇集部員の個人的知り合いを取材したもので、定量分析の対象となる正確さは期待できないが、時代の雰囲気は伝えている。

 彼女たちが家を買う理由は、
「30才をこえ、一生結婚しないかも知れない症候群におそわれ、漠然たるシングルズから明確なシングルズへの移行期に、自分の人生の担保として購入している.」 *20
のである。

 それは、1993年1月に博報堂生活総合研究所が実施した「シングル度調査」にもはっきりと表れている。

一生独身と決めたら家を持つべきですか?との問いに、全体では44.3%がイエスと答え、しかも、女性では55.3%がイエスと答えている。


(単位=%) 男性 女性
未婚 34.0 62.0
既婚 32.3 48.7



未塘で独居 36.7 61.1
未塘で同居 30.6 62.7
博報堂「シングル度調査」より

 男性は、今までの社会で十分な経済力があったので、まさか自分が住む場所に困ることはないだろうし、事実女性よりは安定した経済状態にあった。
そのため、家を拠り所としなくてもすむ。
それゆえに、持ち家指向が薄いのではないかと想像するのだが、前述のごとく、民間借家の経営者たちの拒否反応は、実は男性シングルズのほうに強いことを強調しておきたい。

 「
女が家を買うなんて、そんなかわいげのないことはない。そんなことを知ったら、親戚じゅうがどう思うか考えてみろ。見合いだって来るものもこなくなる」*21
といった風潮に抗して、女性たちは自分の家を買い始めたのである。


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