幸いなことに重大な麻痺も残らず、ほんとうに軽い脳梗塞でした。でも、自分では気が付かないおかしなところがあるかもしれません。匠雅音が、ベッドの上で過ごした11日間の記録と、その後日談です。
 脳梗塞という言葉はよく聞きますが、たいていの人は「まさか自分が・・」と思っているのではないでしょうか。ボクももちろんそうでした。だから初期症状が出ても脳梗塞とはまったく気が付きませんでした。
 脳梗塞に襲われたときに「あっ、これはやばそう」と疑えるように、出来るだけ細かく当時を思い出してみました。脳梗塞の治療は、ある意味時間との勝負になります。人により症状は異なるでしょうが、イザというときのために脳梗塞の初期症状がどんなものか知っておいても、決して損はないと思います。

2006年8月17日(木)

−第9日目− ラクナ脳梗塞とアテローム脳梗塞の違い

 6時起床。すでにやることはない。ほぼ平常に戻っている。夏休み明けのS医師から、今夜、病状の説明をするといわれた。24時間心電図の結果が、上がってくるのを待っているようだ。

ラクナ脳梗塞とアテローム脳梗塞は、たがいに重なり合ってもいる

 そのため、似たような症状がでる。動脈硬化から脂肪性の血栓が生じるアテローム脳梗塞にたいして、ラクナ脳梗塞はより細い動脈が硬化して、小さな梗塞ができるものらしい。
 大脳皮質つまり大脳の中心部に、小さな梗塞ができるもので、15ミリ以下の場合だけ、ラクナ脳梗塞と呼ぶという。
 ラクナ脳梗塞の発症メカニズムは、次の3つがあるという。

1.高血圧などによって細動脈の内壁に庄カがかかり、内壁が変性や壊死を繰り返すうちに細動脈硬化を起こし、内腔が狭まって血流がとだえます。直径が 7 ミリ以下の小さなラクナ梗塞が多く、症状をともなわない無症候性脳梗塞であることもしばしばです。
2.細動脈が脂肪性の動脈硬化を起こして小さなアテロームができ、血流が遮断されます。この場合は、直径 1センチ以上のやや大きいラクナ梗塞となります。
3.脳内の太い動脈が脂肪性の動脈硬化を起こし、そのため細動脈への血流がとどこおることもあります。このほかごくまれに、心臓にできた小さな血栓が、細動脈に流れ込んでふさぐケースもみられます。

 1のケースが多いらしいが、どうもボクの場合は、2ではないか、と思えてきた。
 というのは、発症こそ間歇的でアテローム脳梗塞っぽかったが、構音障害と片側の細かいことに対する運動障害という症状がラクナ脳梗塞のようだ。
 つまり、ろれつがまわらず、言葉が正しく発音できず、そのうえ、片方の手で細かい作業ができなくなる、というのがラクナ脳梗塞らしいのだ。
 夜も9時過ぎになって、S医師から説明があった。
「心原性ではなく、ラクナ脳梗塞です」
やっぱりと、ボク。
「24時間心電図で、不整脈がないことが確認できたので、心原性の脳塞栓は消えた。症状の出方から、ラクナとアテロームか迷ったが、MRをみると12ミリの梗塞が、大脳皮質の下部にできている。ラクナにしてはやや大きいが、15ミリ以下だし、場所からラクナと判断して良い」
とS医師はいった。

 これで少し安心した。
 というのは、ラクナ脳梗塞でも充分に恐ろしい病気なのだが、心原性の脳塞栓にくらべればラクナ脳梗塞は再発率が低い。ボクには幸い後遺症がないので、食生活や生活習慣に気を使えば、再発を防ぐことは可能だ。
 6ヶ月で再発したさんは、心原性の脳塞栓だと言っていた。これで辻褄があう。納得した。
 さて脳梗塞が起きた原因だが、若干の高血圧と、高コレステロールだろう、とのことだった。しかし、血圧は高くても140台、最近では130以下で落ち着いていた。以前コレステロールを計ったときには、正常値だと言われた。にもかかわらず、脳梗塞が発症する。
 今後は、塩抜きの食事と、もっと運動である。いままでも週に1回は泳いでいたから、この回数を増やさなければならない。そして、歩き回ることか。自転車も良いかも知れない。退院直後は気を入れてやるだろうが、問題はそれを続けることだ。
 ちょっと気が重い。

 ラクナ脳梗塞であれば、服用する薬は決まってくる。血液の凝固を防ぐために抗血小板薬と、抗コレステロール薬である。抗コレステロール薬はメバロチンで決まりだが、抗血小板薬はプレタールにしたい、とS医師はいう。ボクはバッファリン81かバイアスピリンだろうと思っていたので、その理由を聞く。プレタールのほうが、若干再発が少ないように感じるからだという。了解。しかし、これは後で問題がおきる。

 S医師の説明は、充分に納得できるものだった。ところで、ボクの友人が脳外の医者で、その友人にかつて診断してもらっているので、今回のことを報告したい。そのために、友人にセカンド・オピニオンを求めるようになるが、けっしてS医師を信頼していない訳ではない、と断ったうえで、MRのフィルムのコピーを欲しいと言った。
 S医師は、少しもイヤな顔をせずに、ただちにボクの要求に応じてくれた。そして、経過説明をかねて、紹介状を書くと言ってくれた。実に紳士的な態度だった。
 これでまたS医師への信頼が倍増した。説明が終わったときには、すでに10時をすぎていた。