幸いなことに重大な麻痺も残らず、ほんとうに軽い脳梗塞でした。でも、自分では気が付かないおかしなところがあるかもしれません。匠雅音が、ベッドの上で過ごした11日間の記録と、その後日談です。
 脳梗塞という言葉はよく聞きますが、たいていの人は「まさか自分が・・」と思っているのではないでしょうか。ボクももちろんそうでした。だから初期症状が出ても脳梗塞とはまったく気が付きませんでした。
 脳梗塞に襲われたときに「あっ、これはやばそう」と疑えるように、出来るだけ細かく当時を思い出してみました。脳梗塞の治療は、ある意味時間との勝負になります。人により症状は異なるでしょうが、イザというときのために脳梗塞の初期症状がどんなものか知っておいても、決して損はないと思います。

2006年8月9日(水)

−第1日目− 診察・検査、そして深夜へ 2

 まったく予期していない事態である。これを書いている今でこそ、脳梗塞だなんて言えるけど、このときは何が何だかわからない。
「今日は何日ですか」
「お名前は」
「ここはどこですか」
「何歳ですか」
今日は8月9日だよ、そんなことわかっているけど、なかなか言葉にならない。つぎつぎに質問が来る。

「やばいかも」

 ちょっと、不安がよぎる。外出どころではない。看護婦さんに、電話番号を書いたメモを見せながら、連れ合いへの電話を頼むのも、一苦労。メモを見せて、電話の仕草。おそらくメモがなかったら、電話を頼めなかった。

 大部屋から、ナース・ステーション近くの個室へと、ベッドのまま移動させられていく。
ベッドでの移動は、一度やってみたかったのだが、やられていると心の余裕はない。
血圧が上がっているのがわかる。

「48時間、絶対安静」

と、S医師の言葉だった。4ヶ吊された点滴の薬袋を見上げながら、ベッドに縛り付けられた。

 10分か15分で、言葉は戻った。やがて、連れ合いが来てくれたが、また、言葉がでない。麻痺がはじまっている。間歇的に発作(発作という感じではないし、麻痺だけでもないので、今後はストロークという)がくる。
 しかし、それ以外には何もない。
まっすぐに上を向いたまま、じっと寝ているだけ。

 やがて、S医師が超音波で、首筋の動脈硬化を調べ始めた。こちらは寝ているだけだから、絶対安静のままである。20分くらいの検査後、すこし動脈硬化がある、とのこと。
 ストロークがおきているあいだは、点滴で血液をサラサラにする以外には、S医師としても何もすることがないらしい。
 今夜が山だ、という顔をして、ナース・ステーションにもどっていった。
こうして、初日の夜が更けていった。