シングルズの住宅

住宅及び居住環境における1人世帯の研究               1994年1月記        目次を参照する

第3章 シングルズの住宅事情

2.公的住宅でのシングルズの扱い

 戦後の極端な住宅不足から出発したわが国の住宅政策は、まず、わが国の労働力を支える部分への住宅供給を至上命令とした。
健全な夫婦に住宅を与えて、次代の労働力を生産させたかったのである。
前述したように当時は、シングルズは時代の価値とは異なった方向にあったし、また圧倒的少数派であった。
シングルズも同じ労働力だとの主張がとおらなかった。
そのため、シングルズが公的な住宅に入居するのは不可能であった。

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 現在の住宅・都市整備公団の前身である「日本住宅公団は…勤労者のための住宅を集団的に建設し、行政区域にとらわれない広域的な住宅供給を実施する機関として、1955年に設立された」 *10 
が、ここではシングルズは最初から排除され、入居の対象者とは見なされていなかった。
つまり、入居条件のひとつに
<現に同居し、もしくは同居しようとする親族がある方>なる項目があったのである。これによって、どんなに収入があろうとも、シングルズたちは公団住宅には入居できなかったのである。

 これは今日でも変わりはなく、たとえば分譲住宅では、1993年春に募集された<アヴェニール熊谷>の<申込みの資格>をみると、

 1.日本の国籍を有する方又は公団が定める資格を有する外国人の方(注1)で自ら居住(注2)するための住宅を必要とする方。
 (注1)く外国人の方の申込資格について〉をご覧ください。
 (注2)単身赴任者が留守家族のため申し込みされる場合は、本人が赴任期間中居住できなくても申込ができます。
 2.現に同居し、または同居しようとする親族(婚約者および事実上姫姻関係と同様の事情にある方も含みます。)がある方。
 3.公団の指定する入居可能日から1ヶ月以内に入居できる方.
 4.譲渡代金を公団の定める方法により確実に支払うことができる方。


と、記されている。

 当初、2.の資格では、内縁関係を認めなかったが、いつからかこれを認めるようになった。
しかし、1.の(注2)で明確なごとく、同じ単身生活者であっても、単身赴任者には門戸を開いている。
ここで明確なことは、公団が入居を認めるのは、あくまで複数の家族なのである。
それは、男と女の夫婦である必要はなく、複数の親族を公団は入居の対象としている。
こうした申込資格をかざされては、シングルズには入居の道はない。

 第6期住宅建設5ケ年計画(1991年3月閣議決定)によると、
特に、3〜5人世帯の榛準世帯向けの住宅ストックの形成に取り組むことを重点課題としている」 *11
ので、公団もそれに対応するのであるから、シングルズが排除されていくのは当然かも知れない。

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 もう一つの公的な住宅である東京都住宅供給公社でも、まったく同じである。
(その他の自治体も同じなので、東京都で代表する)
しかも、ここでは<申込の無効と失格>の項に、B単身者および同居家族の記載のない申込みと、太字で特記されている。

 持ち家促進制度である住宅金融公庫も、設立当初は公団と同じ考え方で、シングルズを対象とはしていなかった。
しかし、「住宅金融公庫は1981年度から40才以上、1988年度からは 35才以上の単身者にも融資が認められるようになった。.」 *12 
のである。

 賃貸住宅に目を転ずると、公団はきわめてわずかながら、設立当初から単身者むけの賃貸住宅を建築していた。
それは、単身者のみを対象とし、複数の家族用住宅とはまったく別であった。
1DKでしかも50平方メートル以下のものにかぎって、単身者にも入居を認めていた。

 公団団地の建設される場所が都心から遠いため、空き家がすこぶる目だちはじめた。
そこで空き家対策として、1977年になると、新設団地に1LK、1LDKという1がつく間取りで以外にも、50平方メートル以下の2DKも、単身者にも入居を認めるようになった。 *13 
これによって、全国18団地、3940戸がシングルズにも解放されたのであったが、これはあくまで空き家対策としてうちだされた政策であって、いわば売れ残りをシングルズに押しつけようとしたものに他ならない。

 公団にとっては、賃貸ではなく分譲住宅が主であるので、賃貸住宅ではシングルズに門戸を開いていることを宣伝しない。
もちろん、50平方メートルを越える2DKや2LDK、3DKなどの賃貸住宅は、
2.現に同居し、または同居しようとする親族(婚約者および事実上婚姻関係と同様の事情にある方も含みます。)がある方。という条件がつき、いまだにシングルズは閉め出されたままである。

住宅・都市整備公団「アヴェニール熊谷」(P24)より

 今までシングルズは、次世代の労働力を生産しないという理由で、公的な住宅からは排除されていたのであろう。
たしかに、公的な政策としての住宅建築は、国家にとって緊急度の高いものから優先せざるを得ないではあろう。
それゆえ、上記のような制限がつくのであろう。
しかし、単にそれだけではないように感じる。
それはわが国の政策に共通してみられる、<身体障害者にたいする更正資金の貸出>などとも同様な、ある種の特徴の表れと、筆者には感じられるのである。

 身障者に資金を貸すが、それで車を買う場合は、1500CC以下の車種に限定する条件がついてくる。
筆者には、むしろ障害者こそ、大型車が必要かも知れないのに、なぜ1500CC以下という制限をつけるのか理解しかねる。
政策の実施にあたってつける条件が、国民の権利を実現する方向でつくのではない。
それからは、為政者が恵み、施すという前近代的な臭気を感じるのである。

 話は少し脱線したが、シングルズであるだけで入居の欠格者とした背景があるので、シングルズと公的な住宅とは嫁がなかった。
しかし、住宅事情が量的にはいちおう充足され、2世帯住宅や大型の間取りを持つ住宅を提供し始めた公団が、いつまでもシングルズにたいして、閉鎖的な対応をするのはおかしい。
現在の公団の基準は、広さによって入居人数を決めているのではない。
どんなに広い住宅であっても、2人以上であれば申し込むことができるのである。
数人で生活できるような広さを持つ住宅にたいして、2人以上であれば応募でき、図のような2LDKにたいしても、1人では受け付けないというのは、シングルズにたいする明かな差別である。


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